阿紀神社探訪記

(駐車場よりの阿紀神社全景)


 常世は静寂の極みにあった。
 凍てついた空気は湖面を覆った氷のようにこの世を包んでいた。
 けれど、澄み切ったこの世の空気の向こうでは、風が吹き荒れていた・・・・・

「サライ」と言う雑誌がある。その12月号だったかに倭姫の足跡をたどる特集が
あった。縁の
神社はどこも山深くにあり、地図で調べても記載されていなかったりする。「阿
紀神社」は地図で確認出来た。
 行ってみようという事になった。

 木刀はどうしよう?
 家を出る時、そう迷った記憶がある。
 恐怖と警戒が心のどこかにあった。
 阿紀神社に行くのだし・・・・・、そう思い、木刀は置いて来た。仮にも斎宮がお
わした場所へ行くのに木刀はないだろう。そう思った。
 それでも護符の類はフル装備とした。
 まさかカメラを忘れるとは思わなかったが・・・・・

 と言う訳で皆様、どうも〜
 SINです。
 今回は心象風景と現実に差があり戸惑っています。
 桜井で友人たちと待ち合わせたのですが、家を出た後、記憶がいきなり桜井
駅です。
 予定より一時間早く着いたのです。ノートを広げてレスでも書こうかなと思って
いると、早々に日出倭さんが来られました。日頃は重厚な気の鎧を着込んだ感
じの方なのですが、ガードの気が一枚軽くなって生身に近く感じました。
(今回は素で挑むのかな?)
 そう思いながら会話をしているうちに皆様お集まりになります。
 おや? と思ったのはPITさんもそうでした。
 いつになくぴりぴりしている感じです。聞くと雄神神社で用を足したと言うので
国津あたりで因縁をふっかけられたかと思い、尋ねると、おだやかだったと言
います。
 日佳里さんは髪型と雰囲気がハイアットちゃん(byエクセルサーガ)しています。
彼女については、以下、ハっちゃんと記載しよう。バキッ(.☆)\(^^;
 運転手三人が通常状態じゃない!(^◇^;
 とは言え、三人とも単に地に近い状態なのかもしれない・・・・・(^^;
 お初のラン2さんも来られ、挨拶も済ませた所で、阿紀神社にレッラゴと出発
です。
 (..;・・・・・カメラがない! 充電して確かにバックにいれたのに〜
 (..;(゚゚;・・・・・阿紀神社、相当濃いかも・・・・・
 カーナビの見鬼君、いつもの室生コースへとは一本違う道を選びます。迂回
による最短コースですが、私には素戔嗚神社を避けたコースにも見えます。車
が少ないので予想よりも遙かに早いペースで道程が進みます。あっと言う間に
纏向の結界から出ます。
 やや上り坂の道をスローペースで進みます。この辺りで静けさが際だって来
ます。
 私とPITさんはしばし無言状態になります。
 私は煙草に火を点けながら後続車との車間距離を話題にして、何気なく言い
ます。
「なんだってこう騒がしいんだろう?」(あちら側の話)
「殺気立ってますねぇ〜」
 PITさんはほがらかに言います。
「三輪は抜けてて、こうじゃなかったけどねぇ〜」
「冬至の準備かな? それとも三輪のお方がこっちへ来てるんで警護体制とか?」
「ありえますねぇ〜」
 なんだか超絶逸な会話をする内に見慣れた光景が・・・・・榛原です。そう言え
ば小学生の頃、祖母がお茶の行商をしておりその仕入先がこちらでした。私は
度々仕入れに付き合わされたのです。
(そう言えば祖母は若い頃、高野から榛原まで歩いて通ったって言ってたな・・・・・)
 故人の思い出に浸っていると、車はススキ野の山(地図を見るとカザグルマ自
生地とある・・・・・( ̄ ̄;ウットリ)へ入ります。西山と言うらしですが、雰囲気が
尋常ではない。異界です。
「まさかこの辺り?」
 おののいて呟くと「こんな所で止まったら、わたしゃ泣くよ」と珍しくPITさんも弱
腰です。
 ようやくやり過ごし、ほっとしていると「ルートガイドを終了します」と見鬼君・・・
・・( ̄▽ ̄゜ 
 先程のが強すぎたのか? あるいはこの辺りが全て尋常じゃないのか?
 私とPITさんの天然レーダーも聞きません(゚-゚;;タラ〜
 周囲を見渡しても何にもない!
 やむなく車を下りて人を捜します。
 こんな所じゃ民家に上がり込まないとダメかしらと思っていると、向こうから年
輩のハイカー三人が・・・・・
 こんな場所、こんな時間にどっから来たんだ? このハイカー?(^^;
 自分を棚に上げて不気味を覚えます。
 折良くハイカーの後ろの民家からお婆さんが出て来たんで、こちらに尋ねます。
「すいません。阿紀神社はどちらでしょうか?」
 お婆さんは立ち止まり、大変珍しいものを見る目でつくづくと私の顔を見回してニ
タ〜と笑います。ほいと手を指し「神社ならそこぞえ」と言い私の後ろに視線をや
り、三台並んだ車を覗きます。「ぐるっと回るとええ」そう言いながら物言いたげに
私の顔を見ます。
「なにしに来た?」
 その言葉を老女は飲み込んだようでした。(^◇^;
 車はあぜ道に近い舗装道をうねりながら下ります。途中、古い句碑があり怪しげで
した。
 阿紀神社の前に来て私はようやく納得します。
 前面の丘陵。背後の山。その間の清流。
「安全地帯なんだ・・・・・」
「昔の人はかっしこいね♪」
 独白にPITさんが応じます。
 霊的にも軍事的にも少数が身を隠す絶好の場所に阿紀神社はありました。

(由緒書)

「神武天皇 紀州熊野の難所を越して大和国宇陀へ出て 当地阿紀野において御祖の
神を敬祭り国中へ押し出すとき朝日を後に戴きて日神の御位勢をかり賊軍を打ち払い
 御運を聞かせ給うと 当社古文書にあり 祭神は伊勢神宮と御同体の天照大神、社
殿は神明造り南向きと、伊勢神宮と全く同じ建方になっております
 境内にある能舞台は宇陀の地が元和以来織田藩の治所となり三代長頼公時代に始め
られたものといわれている」

 鳥居横に掲げられた看板に、私は半ば呆然と視線を投げかけていました。
 倭姫の「や」の字もありません。
 代わりに予想もしていなかった神武東征が出て来ました。
 そして織田家・・・・・
「さびぃぃぃぃ〜〜〜!!!!」
 車から下りてきたしげさんが襟元を抑え縮こまって叫びながら、そのまま特攻をか
けて行きます。相変わらず元気です。
 私は寒さを感じていませんでした。無意識にアドレナリンが出ていたのかもしれませ
ん。
 つまり・・・・・ここは一筋縄の神社ではないのです。
 コンパスを取り出してみました。
 鳥居は北向き。見上げるとなにやら剣呑なのがいます。
 潜ると豪と風が舞いました。緊張を覚えます。側にいたPITさん、日出倭さんと思わず顔を
見合わせました。
 日出倭さんは私にカメラを貸してくれました。
「良いのかい?」
 そう尋ねると「私が撮るよりSINさんが撮る方が面白いものが写るでしょう」と
笑います。
 その時は、本当に面白いものが写るとは思わなかったのですが・・・・・
 北向きの門を潜り川の手前で右に直角に参道は曲がっています。
 参道を昇ると能舞台があります。手入れされた様子がない吹きさらしの舞台です。
 一見して寒気を覚えました。鬼気があります。

(阿紀神社能舞台)

 役者が来る廊下は、来る途中で恐怖を覚えた山に向かっています。何を呼んで舞わす
気なんだ・・・・・いぶかしんで天井裏を覗いてみました。巨大な蜘蛛が巣くっている
感じがしました。
 気が付くと舞台の東裏手にもなにかあります。
 井戸でした。
 今にも貞子が現れそうなその井戸は近年何者かがコンクリートで封をした痕跡があ
ります。社の位置がここ百年変わっていないとするなら、この井戸の位置は奇妙としか
言えません。
 参拝客が利用出来る位置ではないのです。
 井戸のある辺りは本殿に対し明らかなデッドスペースになっています。
 能舞台と本殿に行くまでにある祠が、この井戸を殺しているのです。
 神社にある井戸を殺す。
 これは少しでも神道を囓った人間なら決してしない事です。
 水脈が枯れていても井戸を生かすのが普通です。
 興を覚えて参道を進んでみました。

 参道を上がるとどうしたって三柱ずつ並んだ祠六社を拝む形になります。
 そしてこの六社の奥に南面する小さな社が一つぽつんとあります。
 通常で考えれば、六社は本殿を守護する者で、一つぽつんとある社は本殿と同格も
しくは血族であるはずです。
 側に行くとこの祠六社ともう一社は最近建てられたか、常に人手が入っている様子
があります。
 まず参道側の3社。「大国主命」「月夜美命」「日臣命」とあります。
 日臣命が誰を指すかは分かりませんが、普通は3柱の真ん中は最高位。そこに「月
夜美命」(表記漢字に注意)があると言うのは特筆すべき事だと思います。
 隣の3社は資料写真がないため名が分かりません。聞いた事のない神でしたが、そ
の配置は月夜美を踏襲するものであったと記憶します。
 神社縁起にあった「神武東征」に思い当たります。
 神武は「日の威光」を頂くために月読を祭らねばならなかったのかと考えると面白い
ものがあります。
 そうなると奥の南面する社は何だろう?
「須瀬理姫命」とあった。(字は間違えているかも・・・・・)
 ここで布都一族の姫君。大国主の后に会うとは思いませんでした。
 再度周囲を見回します。
 あからさまに意図的なこの配置。神の名を記した板は真新しいものです。
 大国主からスセリを引き離して南面して祭る意図はなんでしょう?

(祠6社とスセリ姫の社)

 そんな事を考えながら、スセリの社の後ろから、本殿後ろへ右回りで行こうとする
と、がっ!と頭上で音がして、大人の太股ほどはある松の枝が落ちて来たので、これ
を避けて後ろへ飛びます。
 苦笑しました。普通落ちて来るものじゃないでしょうに・・・・・
 本殿裏のあたりで、向こうからハっちゃん、るなさんの声がします。
「ねぇ、危ないねぇ」頷き合ってそんな事を話しています。彼女達にも何かが落ちて来
たのかもしれません。
 本殿は荒れていました。悲しいくらい・・・・・ 
 気配もなく、神がおわす感じはありません。
 神武が関わる神社でアマテラスが祭られているのなら、多くの資金と人手が入るは
ずです。それが無いのなら、ここはアマテラス本体を祭ってはいないのだと思いました。

(阿紀神社本殿) (本殿正面の森。抑えが施されている)

 誰かの居宅跡だなと思いました。
 女性の臭いがあるから、やはり倭姫が一時期住んでいた場所なのかもしれません。
 参道を戻りながら他の配置なども確認します。
 川の流れを上手く利用した敷地です。
 この川の水は清くて源氏ホタルが自生しているとの事でした。
 この川に朱塗りの橋が架けられています
 川の向こうに、最初、神社かと思った小山があります。
 ちと気の立ち方が普通ではない。注視しているとすでにPITさんがよじ登ろうとし
ていました。(^◇^;イツダナ・・・・・
 二人して登ります。バキッ(.☆)\(^^;
 近所の方もここへはあまり登らぬようです。
 剣呑なのがあちこちにいて、ただの山とは思えないものです。
 頂上辺りは開けた空間がありました
 そこへ近づく危険は私もPITさんも無言の同意の下、避けました。
 ただ私はカメラを向けた。
 ファインダーを覗き、そこに見えたものに戦慄していったんカメラを下ろします。
「・・・・・これは・・・・・写してはいけないんだろうな」
 そう呟くと「そりゃそうでしょう」とすでに下りる体勢でPITさんが言います。
 それでも私は撮リました。
 戻って見ると、川の端でPITさんと日出倭さんが、小さな船着き場のようなものを
指さしています。護符や人形を流す場所かと思いながら、今写した画像を見せようと
しました。光のシャボン玉が見えたと思ったら、カメラがCFを認識しなくなります。
 日出倭さんの顔が引きつります。(ごめんよ〜)

(クラッシュの原因らしい画像・本来なら野原が写るはずである)

 調べると、阿紀神社の画像はすっぽり消えていました。
 入れ替えってもらったCFで再度、急ぎ足で資料写真だけを取り直します。
 消えた写真は色んな意味で確信犯の写真であったので惜しかった・・・・・( ̄▽ ゚̄
 ちなみに認識しなくなったCFはPCでデーターを抜き、フォーマットかける事で復活
しました。この技は覚えておきましょう。(^ー^)b
 阿紀神社は大和朝廷の成立に向け流れた血の多さを考えさせるものでした。
 ではでは〜 (^^)/~

※ちなみにこの文章は三輪山探訪記(6)と重なります。m(__)m

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