【怖い話】野次馬
みなさん、どうも。
SINです。
友人がバイクで事故りました。
兎に角、バイクが好きな男で暇さえあればバイクを乗り回している男です。
かと言って、飛ばし屋ではありません。市内走行をする時などは、極めて慎重な運転
をする男で、テクニックも持っています。
事故の現場は彼の自宅近くの交差点でした。事故が多発する交差点で歩道橋が作られ
信号も取り付けられたのですが、それでも事故の減らないイヤな交差点です。
深夜、彼はその交差点に直進で入りました。右折待ちの車がいたのは、確認してい
ました。彼は速度を落とし、パッシングまでして、その乗用車が動かぬ事を見定め
て交差点に進入しました。すると、その乗用車はいきなり急発進したのです。
「殺す気か!!」
彼は思わず叫んだそうです。避けられるタイミングではありません。彼を跳ね飛ば
すために発進したとしか思えませんでした。
咄嗟にバイクを蹴り飛ばし受け身を取りました。
近所の住民が出て来ます。路上に横たわる彼を見て、「頭を打っているから動かすな
!!」などと怒号が飛ぶのが聞こえます。
「大丈夫か?」との問いかけに、頷く事が出来ました。誰かがヘルメットを脱がせてく
れます。路上に横になり救急車を待つ間、彼は自分を跳ねた車への怒りが沸き上がるの
を感じていました。
ふと上を見上げると歩道橋に鈴なりに首が並んでいます。その首が彼を見下ろしてい
ます。
深夜の住宅街で、こんなに野次馬が集まるのかと彼は思いました。
次の瞬間、彼の胸の内の熱い怒りは氷の塊のような恐怖に変わりました。
歩道橋の欄干に並ぶ老若男女交えた無数の顔。
まともな顔はひとつとして無かったのです。
(皆、ここで死んだ奴等だ。こいつら、俺を待っているんだ)
そう彼は直感しました。
彼を跳ねた運転手は、バイクが全く見えなかったと証言しています。
嘘ではないだろうと彼は言います。
二度とあの交差点は通らないと彼は言っています。