【怖い話】ネックレス


 みなさん、どうも。
 SINです。
 かなり、異様な話です。
 もう、十年以上前のことです。彼女は梅田のフリーマーケットでそのネックレスを手
に入れました。売っていたのは70代と思われる痩せた老人でした。その老人は店を出し
ているのに、客に声をかけようともせず、俯いて商品をじっと見つめています。並べら
れている品は乃木将軍の写真、仏像、帝国陸軍のヘルメットなどです。若者が集うその
フリーマーケットで老人は異彩を放っていました。
 けれど、誰もその老人に注意を払おうとしません。その老人には存在感が希薄でし
た。
 老人が並べている品の中に翡翠のネックレスがありました。異国の民芸品のような作
りです。彼女はそのネックレスに興味を持ちました。
(尋常なものじゃないわね)
 そう思ったそうです。彼女には老人が並べている品の全てが霊的な因縁のあるものだ
と分かっていました。その中にあって、なお、そのネックレスは異様だったのです。彼
女がしゃがんで、ネックレスを手にすると、老人が顔を上げました。目が鷹のようで、
なぜか天狗を連想したといいます。
「興味があるか?」
 老人はつっけどんな口調で尋ねます。彼女が呆気に取られていると、「やる」と言う
なり手早く店をしまい立ち去ったそうです。
 彼女は非常に優れた本物の霊能者でした。このように見知らぬ人よりいきなり物を押
し付けられるのは初めての事ではありません。ただ、この時は、あの老人は自分にこの
ネックレスを渡すためにここにいたように思われたそうです。
 異変はすぐ現れました。
 この後、彼女は梅田の地下街でウィンドショッピングをしていました。妙な気配に顔
を上げて見ると、十メートル程前を見知った人影が歩いています。それは彼女自身でし
た。その日、彼女はジーンズにインド木綿のシャツというラフないでたちでしたが、オ
リジナリティーにこだわる彼女はデザインなどを選びに選び、なおかつ、いったん脱色
して染め直ししていました。手前を歩く女性は姿形は勿論、服装まで同じでした。彼女
の視線に気付いたように、手前の女性は振り返りました。その顔はまさしく彼女のもの
でした。振り向いた女は彼女を見てにやりと笑うとゆっくりと歩き出します。
 彼女は後を付けました。その女はトイレへ入りました。間髪入れず彼女もトイレに入
ったのですが、その女は消えていました。このとき、彼女は自分が容易ならざる者に魅
入られたことに気付いたのです。
 彼女(T嬢とします)はこれまでにも特殊な霊的体験をしてきました。だが、そんなT嬢
にとっても、この体験は異質でした。普通なら、ネックレスを手放す事を考えるのでしょう
が、T嬢はこれから起こるであろう異変に立ち向かおうとしました。すでにして、このネック
レスに魅入られていたのかもしれません。
 それなりの準備を整え、T嬢は帰宅しました。
 その夜は彼女が考えていたような異変は起こりませんでした。
 翌朝、肩透かしと安堵が入り混じった気分で、彼女は鏡台に向かいました。
 口紅を塗ろうとして、違和感を覚えました。
(誰か使った・・・・)
 彼女はそう確信したそうです。口紅だけでなく、ファンデーションも香水も誰かが使
った感じがします。
 彼女は化粧を止めました。職場で化粧することにして、口紅には表面に爪で十字を刻
みました。魔除けの意味も込めたものです。
 職場から帰宅した彼女は真っ先に口紅を調べました。刻んだ十字は消えていました。
 誰かが又、口紅を使ったのです。T嬢は慄然としました。
 T嬢から私に電話があったのは、それから2週間後です。
「ちょっと会えないかな?」という彼女の申し出を、事情を知らない私は快くOKしました。
待ち合わせの喫茶店に彼女はそのネックレスをして座っていました。
 変わったネックレスで目を惹きました。インカかアステカから出土したような品で、石の
一つ一つに細かな見たことのない文字が刻まれています。エキセントリックなT嬢に似合
ってはいましたが、私がこれまで感じたことのない気を放っていました。翡翠はまるで人
の脂を吸ったようなぬめりのある輝きをしていました。私はそれに触れると熱病に罹ると
いう理由のない恐怖を感じました。
「なに、そのネックレス?」
 そう、尋ねて私は軽い目眩を感じました。脳裏に奇妙な光景が浮かびました。鬱蒼とし
たジャングル。巨大な木の枝に寝そべりこちらを見つめるピューマ。
 こめかみを抑えて座る私に「どうしたの?」とT嬢は尋ねます。
 彼女はその気になれば、こちらの思考を読める人なので、包み隠さず今の幻影を説明
しました。T嬢はなるほどと肯くと、このネックレスを手に入れた経過を説明し、家へ来てく
れと言います。
 彼女の家はむっとする気に満ちていました。霊気とは質が違いました。妖気のように感
じました。
 T嬢は一日でこんなに出るのよとゴミ袋を見せました。袋の中は一メートル程の長さの髪
の毛でいっぱいでした。私は吐き気を覚えました。
 風呂場へ駆け込んだ私は湯船いっぱいに漂っている髪の毛を見て、たまらずに戻しま
した。
「肉がね、ついているの」
 T嬢は言います。髪の毛は肉団子状の核を中心にしているのだそうです。その核は生
きているとT嬢は言います。
「それだけならいいのよ」
 昨夜、彼女の別れた彼氏から馴れ馴れしい電話があったといいます。今度は旅行でも
しようという元彼氏に「なに考えてるのよ」とT嬢は怒りました。よくよく話してみると、元彼
氏の家へT嬢が訪ねて行き、和解して一夜を過ごしたというのです。無論、T嬢に覚えは
ありません。
「冗談じゃないわよ」とT嬢は泣きました。T嬢に元彼氏と復縁する気はこれっぽっちもあ
りませんでした。
「なにかに乗っ取られる気がするの」
 T嬢は脅えていました。しかし、彼女の手におえぬ物を私が何とか出来るはずもありま
せん。私はネックレスを手放す事を薦めました。
「これは、私の所で止めないと大変な事になると思う」
 T嬢はそう言います。
 私は高野山の師匠に連絡することを約束して家路につきました。そして、私は原因不
明の発熱に見舞われました。
 師匠は神戸の実家におられました。すぐ来いとのことなのでT嬢の車で夜の高速を飛
ばしました。途中、怪異に襲われ続けましたが、グロイので描写は避けます。ただ、な
にかの力で走行中の車が宙に持ち上げられたときは死を覚悟しました。
 師匠は水晶によるヒーリングで私の熱を下げてくれました。
 T嬢は一週間師匠の下で過ごしました。
 その間、何があったのか、私は知りません。
 今も、T嬢はそのネックレスをしています。
 彼女の能力は飛躍的な進歩を遂げ、雰囲気も近寄りがたいものになりました。
 彼女は会社を辞めて、師匠のお寺の事務をしています。時々、師匠の紹介で預言をす
るようですが、噂でははずれたことがないそうです。

PS;この話はアップすべきじゃなかったかもと後悔しています。

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