【奇妙な話】木目
みなさん、どうも。
SINです。
昔は天井は大抵板張りでしたね。夜寝る時にその木目が恐ろしげな顔に見えてしまう
事はなかったですか?
私はあります。小学校の4年生の時でした。天井に親指の先程の大きさの染みが出
来たのです。最初は何かに見えた訳ではありません。ただ無性にその染みが恐ろしくて
たまりませんでした。その夜から私は金縛りに遭うようになりました。
普通の金縛りとは異なり、体中をギリギリと締め上げる苦痛を伴っていました。
染みは一晩一晩徐々に大きくなっていきます。
手のひら程の大きさになった時、それが何かは分かりました。
鬼です。
鬼としか表現出来ません。痩せさらばえた全裸の体に浴衣のような物を羽織り、凄
まじい形相で手を前に突き出し、こちらへ疾走する姿でした。
その鬼は日一日と近づいて来ます。まるでスローモーションのように染みは変化して
いました。
あの鬼は自分を追い掛けて来ているのだなと思いました。捕まれば殺されるだろうと
も思いました。
私は奇妙な諦観をもって「死」を受け入れていました。恐ろしくてたまらないけど、
両親に相談しようとも思いませんでした。言うだけ無駄とも思えたし、死は抗いがたい
運命に思えました。
今晩は捕まるのかなと思って床に就いた夜です。
染みは奇妙なお札のような物で隠されていました。真っ青に染めた和紙に墨でうね
うねとした奇妙な文字が書かれています。
家族の誰かが貼ってくれたのだと思い、安心して寝ました。誰が貼ったのか問い質
そうとは何故か考えませんでした。
中学3年の時にその家を引っ越す事になりました。
自分の部屋を片付けていた時、天井のお札に思い当たりました。色あせて黒ずんだ
お札半ば、板と同化していて剥がす事が出来ません。
家族にその時初めてお札の事を尋ねました。
誰もそのような物は貼っていないと言います。
私は何故か小学2年の時に他界していた曾祖父が貼ってくれたのだなと思いました。