【奇妙な話】シルクハットの影


 みなさん、どうも。
 SINです。
 その女性は京都のD大学に通っていました。夏休みに入る少し前、彼女は部活で帰
りが遅くなりました。彼女は自転車で通学していましたが、同方向の友人と二人で帰
宅する事にしました。
 夕方に降った雨は上がっていましたが、霧がかかったような妙な夜だったそうで
す。D大裏手の住宅街の路地を自転車を押しながら歩いたそうです(友人が徒歩だっ
たので)。通い慣れた路地ですが、その晩は妙に暗くて人気がありません。
 いつの間にか手前に人影があるのに彼女たちは気付きました。
 実に奇妙な人影です。
 シルクハットを被り燕尾服を着ているのがシルエットで分かります。それだけでも
珍妙なのですが、その人影はステッキをチャップリンのようにクルクル回しながらこ
ちらにやって来ます。
「・・・・・あの人変だよ」
 友人の囁きに彼女は眉をしかめて頷きました。
 が、おかしいのはそれだけではありません。人影はこちらに向かって歩いて来るは
ずなのに、どんどん小さくなるのです。
(なんで?)
 彼女は人影を見定めようとしました。
 次の瞬間、彼女は頬を連打されていました。友人が彼女を激しく打っているので
す。思わず「何をするのよ!」と叫びました。
「あんたこそ、どないしたんよ!!」
 友人は泣きながら叫び返します。
 彼女は自転車を置き、「行かなくちゃ。行かなくちゃ」と呟きながら、友人の制止
を振り切りその人影を追おうとしたのだそうです。無論、彼女にその記憶はありませ
ん。
 ぞっとして人影がいた方を見やると、すでに影は消え失せていました。

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