【不思議な話】 障子戸
名無しさんのお話。
或る寒い日の真夜中の出来事です。当時三歳くらいだった私は、どうしても厠
(かわや)へ行きたくなって目を覚ましました。厠迄はかなり長くて暗い廊下を歩
かなければならないので、余程隣で寝ていた母についてきて貰おうと思ったので
すが、結局一人で行くことにしました。
厠に行くにあたって、私は暗い廊下を歩かず、各部屋の電気を点けながら行く
ことにしました。襖と障子戸を開けながらいけば、厠に辿り着けるからです。順
調に電気を点けて、何とか厠にたどり着いて用を済ませることができました。
さあ後は寝床に戻るだけです。厠へ来たときと逆の順序を辿れば、寝床に戻る
事が出来るのです。が・・・・・・そうはいきませんでした。
一ヶ所どうしても閉まらない障子戸があったのです。
正確に言うと、途中までは閉まったのですが、完全に閉まりきらない障子戸が
あったのです。困りました。私の家はこの手の躾(しつけ)には大変厳しく、一端
開けた戸は必ず閉めなければならなかったのです。幼少の私には、既にその事が
刷り込まれていました。
どんなに力を込めても、あと10センチ程度どうしても閉まりません。一度全
開にして勢いを付けようと思ったりもしたのですが、何時の間にやら開ける事す
ら出来なくなっていました。
何時の間にやら真冬だというのに汗をかいています。ようやく諦める決心がつ
きました。さあ寝ようと思って障子戸に背を向けた瞬間、不思議な事が起こりま
した。
ガタガタガタガタッ
と背後からもの凄い音がします。何だろうと振り返ると、
全く動かなかったはずの障子戸が少し開いて、今度は
ピシャリ と勢いよく閉ま
ってしまいました。
人間は信じられないような出来事に直面したとき、突飛な発想をするものです。
私は「こびとさんをはさんでしまった」事にして、スヤスヤと眠ることにしま
した。