【不思議な話】 人魚

名無しさんのお話

今を去ること一昔以上も前の、ある夏の日のお話です。当時私は単車の購入資金
を作るため、日夜サザエ漁に精を出しておりました(注:一般の方が魚介類を捕獲
することは、法律で禁じられています)。夕陽が水平線に沈もうとしていたので、
恐らく午後7時をまわっていたと思います。

「さあそろそろ帰ろうか」と船を漕ぎ出そうと思ったときに、私は背中に熱い視
線を感じて振り返りました。
伝馬船から10mくらい先でしょうか、色白で髪の長さは肩くらいの華奢な女性
が、海からひょこっと顔を出して、じっと私を見つめています
「こんな時間に、しかもこんなに陸から離れた深い所で海水浴もないだろう」と
思っていると、彼女はこちらに向かって一生懸命手を振り始めました。なにげなく
私も手を振ると、彼女は満足した様子で、夕陽に向かって泳いでいきました。

「この娘、人間じゃない」あまりにも奇麗に泳ぐ(波がたたない)その様をみて、私
はそう思いました。しかし恐怖心は全くありません。

「なんだ、人魚か。それにしても、タイプだったなあ。」そう思った後、私はこれ
以上深く考えるのを止めました。

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