【奇妙な話】 手櫛


 みなさん、どうも。
 SINです。
 彼女のお父さんは、もの心ついた頃、病の床にありました。
 時代がやや古かった事、田舎であった事などで、お父上は自宅でふせっておられま
した。物静かな方だったそうです。
 彼女はお父さんが好きでした。でも騒ぐ訳にはいきませんので、お父さんの枕元
で、当時としては高価なバービー人形を並べて遊んでいました。
 お父さんはそんな娘を慈愛の目で見つめて、ときおり無言で、彼女の髪を手櫛で丁
寧に丁寧に解いてくれるのでした。
 父の手櫛を感じながら静かに人形遊びをするひとときは、至福の記憶として彼女
の心に刻み込まれておりました。
 お父さんは彼女が小学生の時に他界されたそうです。
 やがて彼女も母になりました。
 三歳になる娘を連れて盆の帰省をした時、彼女の娘は、未だに父の部屋にあったバ
ービー人形を見つけて「持って帰る」と言いました。
 自分の「宝物」が娘の「宝物」になる事に言い得ぬ感動を彼女は覚えたそうです。
 自宅に戻り、どの程度の時間が過ぎたでしょう。
 お出かけするのに、娘の髪を櫛で解いていると、唐突に娘さんが言いました。
「ママ、お手手でやって」
「お人形さんは、お手手でしてくれるの。気持ち良いの」
 彼女はお父さんの手の温もりを思い返しました。
 父は今、物静かな慈愛の目を孫に向けて慈しんでくれているのだと思うと、涙がこ
ぼれたそうです。

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