【不思議な話】 京都午前五時
健康法師さんのお話
今思えば昔の事ですが、状況は今もそんなに違っていないだろうと思って書きます。
京大を受験の2、3日前、私はある知り合いの家に来て泊まりました。家は京都の
北西の鷹ケ峯にありました。よく晴れた日でしたが、強い風があって底冷えがし、
「この風を『比叡おろし』という言うんです」とその家の家人から説明されて「ふ
うん」と思っていました。
その日はよく寝て、次の日の朝は、興奮していてかなり朝早く、日の出前に目がさ
めました。私は起きて外に出て丘の上から京都の市街を眺めました。比叡おろしは
京都上空の淀んだ空気を吹き飛ばし、すがすがしくしていました。日の出前とはい
え薄明りがさしており、それはきれいな景色でした。そうしているうちにだんだん
日が山の端に上がってきて町が明るくなってきた時、私は町の真ん中に変なものが
あるのに気がつきました。それは雲の塊でした。比叡おろしが全部吹き飛ばしてい
る筈なのに、まだ残っているのがあるのかな? 京都でも今ごろ大気の逆転層現象
が起こるのかな?と思ってよく目を凝らしてみるとそれはどうみても、京都の町の
極めて限られた狭い範囲をドーム状にカバーしており、くすんだ淀んだ色をしてい
ました。場所は、正確ではありませんが、持っていた地図と対照してみたところ、
多分河原町から川を挟んで知恩院にかけての一帯であり、その周りは完全にクリア
なのにそこだけレンズ状というかドーム型の雲が低空に掛かっていたのです。
後でその家の家人が起きてきたので、私が見たものを説明して、あれはなんでしょ
うねと尋ねましたら、「ううん、自動車のスモッグなんじゃないですか。河原町の
あの当りはいつもそうだから」と答えました。川霧にしてはそこだけしかないとい
うのが納得が行かず、スモッグだって、なぜそこだけに比叡おろしに飛ばされない
で沈澱しているのかは説明できませんでした。なんかミステリアスな雲であったと
思います。