【奇妙な話】 芳子・・・・・
Oさんのお話
私の祖父の姉にあたる人が15年位前に亡くなりました。
私の実家から車で3時間くらいの田舎に住んでいました。
名前は「富子さん」という方でした。
美人であるだけでなく内面的にも大変魅力的な人で、男兄弟に囲まれながら
婿養子を貰い、その家の中心にいたという人でした。
孫や、私のような親戚の子等、分け隔てなくかわいがってくれたそうです。
残念な事に記憶が断片的にしか残っていませんが・・・。
さて、その富子おばあさんも寄る年波には勝てず、89歳でこの世を去りました。
晩年は痴呆が進み、会話や受け答えが全く出来ない状態が続きました。
私が5歳の頃あたりから、おばあさんは痴呆が始まっていた様でした。
2月のみぞれ雪が降る中、田舎の古いタイプの特異な葬儀が行われました。
その葬儀に参列して、何日か経った夜の事です。
私の夢に富子おばあさんの姿が現れました。
背景は明るいクリーム色でぼんやりしていました、おばあさんは藤色の無地の
ブラウスのような物を着ていました。
記憶にある痴呆の状態ではなく、穏やかでしっかりした表情で立っていました。
そして、「芳子・・・。」と私の名前を呼んでくれたのです。
痴呆の前の声はもうほとんど覚えていなかったのに・・・。
しばらくしてハッとしたのですが、その声だけは耳に残っていました。
本当に温かく、そして鮮明な思い出です。
今ではその田舎の家も無人になり、高齢化・過疎化の進むその地域に、
かつてああいう素敵な人がいた事も、段々と忘れ去られて行くのでしょう。
一抹の寂しさを感じずにいられません。