【奇妙な話】 ご神木
みなさん、どうも。
SINです。
前出の「虚無僧」の「彼」の話なのですが・・・・・
どうにも奇態な話に事欠きません。
彼が幼少時代を過ごした家は神社のすぐ側にありました。
彼が子供の頃は、近所の子供達は常に群れて遊ぶのがしきたりのようになっていた
そうです。
リーダーになる「頭」がいて、4・5歳から小学校6年生くらいの子供達が十数人
グループになり遊んだそうです。
「頭」は中学生になると群から抜け、次の「頭」を指名していたそうです。
木登りの仕方。蛇の捕まえ方。秘密基地のありか等々、年代に応じて教えられたそ
うです。(すごく合理的な構成だな・・・・・)
で、彼なのですが、当然、一人で外で遊ぶ事はありませんでした。
仲間の誰かが必ず迎えに来て外で遊ぶからです。
ところが、なにかの折りに唐突に一人になる時があったそうです。
大抵、そういう時は神社の境内のご神木の前にぽつねんと居たそうです。
楠の巨木で樹齢は想像もつきません。
根本に穴が空いており。幼稚園児なら二人向かい合って座れる広さがあったそうで
す。穴の奥には宝珠をかたどった白い陶器と小さな鳥居があり、蛇でもいるのか、常
に卵とお酒が供えてある場所です。
一人ぽつねんと神木の前に居る時、彼は無思考状態で穴に入るそうです。
中には必ず先客がいます。
「信じないだろうが、妖怪油すましそっくりの爺さんがいるんだ」
信じるよと先を聞きますに、その簑をかぶった幼稚園児なみの小柄なお爺さんが奥
に無言で座っているんだそうです。油すましは大事そうに白い御神酒徳利を抱えてい
ますが、飲んだ事はありません。
彼が入るとお爺さんは巨大なシュロの葉のようなものを広げるそうです。
その大きな枯れた葉には墨で碁盤のように升目が描かれています。普通の碁盤と違
うのは、中央で油すまし側と彼の側に分けられている所です。
お爺さんは彼が座ると、御神酒徳利を葉の上に傾けます。するとコロコロと木の実
のようなものが落ちるそうです。
彼とお爺さんは無言でそれらの木の実を自分の陣地へ並べます。
その後、将棋のように木の実を互いの陣地へと動かし合うのですが、そこには何の
法則もルールもなかったそうです。
半時ほどすると、お爺さんは木の実をざっとかき集め丁寧に御神酒徳利に戻すそう
です。この間、終始無言です。
それで彼はこの奇妙な儀式の終わりを知り、無言のまま祠を出て家に帰るのです。
何故か私と会うまでは誰にも話す気がしなかったそうです。
「今思うと・・・・・」
彼は言います。
「あの儀式の後には村で誰かが死んだり赤ん坊が生まれたりした気がする。俺はなん
だか命のやり取りを向こう側としていたようで、今になって怖いんだ」
この現象は彼が七つの時まで続いたそうです。
お前の方が余程怖いぞと心で突っ込みを入れてから尋ねました。
「今も誰かが祠に入るのかね?」
彼は首を振りました。
「今はそういうレベルでは動いてない気がする」
やはり怖い男だと思いました。