【怖い話】 もう一人の事故


 みなさん、どうも。
 SINです。
 私の先輩の大学の友人が新車を買いました。
「今夜は遠出するんだ。お前も来るか?」そうキャンパスで先輩を誘ったそうです。
 十津川の方へ出かけると言ったそうです。先輩は仕上げなければならないレポートが
あったので、次の機会にと断ると、「そうか、じゃぁ、向こうへついたら電話するわ」
そう答えて大学を出ていったのです。
 その夜の事です。
 深夜に先輩の下宿の電話が鳴りました。
 あいつかなと思って出ようとすると切れました。戻ろうとすると又、鳴ります。
 そんな事が三回続きました。
 先輩は誰かに見張られているような不気味な感触を覚えました。
 四回目に電話が鳴った時,先輩は電話に向かって怒鳴りました。
「いい加減にしろ」
「なに言ってんだ? お前?」
 昼間の友人の声が答えます。
「何回も電話架けたろうが?」半ば祈るように先輩は言いました。
「電話ぁ? 知らねぇよぉ。それより、大変なんだわ。事故っちまってよぉ。新車がお
しゃかや」
 電話の向こうの友人の声は全然、大変そうではありません。
 まるで酔っているかのように,異様に陽気なのです。先輩はその陽気さが神経に障り
ました。
「お前、怪我は? 大丈夫なのか?」
「あはは。それがよぉ、死んでやんの。まいったわ」
「人身か?!」
「あはははは。俺が死んでんの」
「なに?!」
「俺、死んじゃってんの。ほんで、車は燃えてるし、わややわ」
「お前、何言ってんだ? ふざけてんのか?」
「んじゃ、俺、そろそろ行くわ」
 電話はそれで切れた。

 翌日、友人の死が確認されれば、これはよくある電話怪談になった。
 この話は違います。先輩の友人は生きて大学に来ていました。
「お前、いい加減にせぇよ!!!!」胸ぐらを掴む先輩にその友人は真っ青な顔で言いまし
た。
「とんでもないもの見ちまった・・・・」

 友人の話はこうです。
 夜、温泉からの帰路、峠を走っていると後ろからパッシングされたそうです。新車で
ならし運転でしたので,スピードは出ていません。
 道を空けようと、左に寄ってミラーを見ると,発売後間もない自分の車と同じもので
す。色まで同じです。
 当然、興味が湧きました。どんな奴が乗っているのかと、車が並んだときに覗き込む
と、そこには良く知った男がいました。
 なんと自分自身が運転していたのです。
 もう一人の自分はニヤリと笑ったように見えました。スピードをグンと上げると追い
越してガードレールを突き破り、夜の虚空へダイブしました。
 爆発音と共に火柱が上がりました。
 その友人は現場で慌てて車を降りました。
 ガードレールは壊れていません。事故を起こした車もありませんでした。
 闇と静寂のみがありました。
 その友人は震えながら自宅へ帰ったのです。

「電話したのは,もう一人の俺だよ」
 そう答える友人はがたがたと震えていたそうです。


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