【不思議な話】 紫水晶
Kさんのお話
私は雫型の紫水晶のペンダントを大切にしています。
先日、ある方にそれを見せた時「これ、力を使い果たしているね。買って間も無い
時に恐い思いしなかった?」と聞かれました。。
そう言われて思い当たるのは一つの場所しかありません。
中国・北京郊外にある「明の十三陵」。
紫水晶を買った直後に私は中国に行きました。故宮博物院、万里の長城と色んな観光
地を巡ったのですが、その中の一つとして明の時代の皇帝の陵墓が集る十三陵を訪れ
ました。十三陵はさしずめ中国版「王家の谷」のようなものと言えば良いでしょうか。
その中の一つ、神宗万歴帝の墓所、長陵が公開されていました。参道には象など沢山
の霊獣の石像が並べられ、美しい望楼が立ち、地下深く作られた地下陵墓は総大理石。
数々の壮麗な副葬品で溢れかえっています。万歴帝はこの地下陵墓のために巨万の富
を湯水のように使い、明の屋台骨を傾けたと言われているのだそうです。
その墓所を見学したのは8月の半ばで北京の気温は連日40度を越していたのですが、
地下墓所はひんやりと冷たく、そしてただならぬ湿気に満ちていました。天井は高い
のにまるで押しつぶされるような気がします。私が「霊気を感じる…」と呟くと、仲
間の一人である僧侶の資格を持つ男の子も同じように「霊気を感じる」と繰り返して
いました。
数々の副葬品がその場に展示されています。その中で特に印象に残っているのは宝石
で飾り立てられた皇后の冠、皇帝の冠です。ガラスケースに収められていますが、な
んとなくそれはそこにしか置いてはならないような重たげな、いや、人が被るのには
重過ぎる冠に見えました。
別になにも見えない私ですが、寒さと異常な湿気に急速に気分が悪くなるのを感じ、
口の中で小さくお経を呟きながら見学の順路をそろそろと進みました。その先に皇帝
のものだった大理石の棺が置いてあります。じっとりと水滴をまとわり付かせたその
石の棺には多数の硬貨が貼り付けられています。湿気で硬貨が張り付いてしまうので
す。それに硬貨を貼り付けられる人は良い事があると言われているそうで、沢山の人
が硬貨を貼り付けようとしているのですが、私は自分も挑戦したかどうかは全く覚え
ていません。とにかく長居したくなくて、友人達を尻目に口の中で般若心経を呟き、
見よう見まねで覚えた九字の印を切って「二度とここには来たくない」と繰り返し呟
いていたような記憶があります。
その旅はつつがなく終わりましたが、この紫水晶はその時にいかなる思いをしたので
しょうか。