【怖い話】 体当たり
Tさんのお話
彼女自身も"見える"人なのですが大学の先輩に輪をかけて凄い人がいたらし
く寝るときに電気を消すと部屋の隅に人影が蹲っていたりするのは日常茶飯事
らしいです。それも同じ人でなくて違う人が入れ替わりやってくるらしいので
すが、本人は気にせず寝てしまうらしいです。その人が関わっている話です。
その先輩が所属しているサークルで合宿に行くことになりました。大学生の
貧乏旅行ですから当然安い宿を探して泊まることになります。その時も旅館と
とは名ばかりの森に囲まれたうらぶれた宿だったそうです。
森を散策したりして晩飯まで時間を潰し翌日は朝が早いのでみんな早く床に
ついたそうです。でも普段夜更かしばかりしているのですぐには寝られません。
そんなとき誰かが旅館に着いたときに案内された仲居さんの一言を思い出しま
した。その旅館は廊下を挟んで幾つかの部屋があるのですがその突き当たりに
も部屋があります。当然全部和室です。その突き当たりの部屋を見ながら仲居
さんは「あそこは物置になっているから入らないで下さいね」と言ったのです
そうなるとムラムラと好奇心がわき上がり誰が言うともなく見に行くことに
なりました。しかし、その逸な先輩は「眠い」と言って寝てしまいました。
放って置いていざ出陣です。障子の前まで来ました。別段汚れているとか破れ
ているとかはなく小綺麗にはしてあるのですが桟には埃が積もっていて物置と
して常に使われているとは思えません。部長が「開けるぞ」と言って少しずつ
障子を開いていきます。人一人分ほど開けて中を覗くと期待に反して自分たち
の部屋よりは大きいだけで何の変哲もない和室です。でもこの部屋が物置でな
いのは確かです。「これは変だぞ」と言って部長が中に入ろうとするのですが
敷居を越えられません。何回やっても誰がやっても部屋に入れないのです。そ
れも何か障害物があるのは判るのですが見えないのです。怖くなって皆で部屋
に戻りその先輩をたたき起こして連れていきました。
寝ぼけ眼でブツブツ言いながらその部屋の前まで来て開いている空間を暫く
見つめていました。そして、
「此処からはいるのは無理や、入りたいならもっと障子を大きく開けなあか
ん」
部長が「何でや」と聞き返すと「お前ら見えへんか」と言いながら欄間を指さ
しその指をスーっと下に降ろします。
「その欄間から荒縄が垂れ下がってその縄で男が首くくっとる。お前らそい
つの体が邪魔で入れへんのや。どいつもこいつもお化けに体当たりしとったん
やぞ、一人くらい気が付けよ」
と言い残してさっさと部屋に戻ってしまいました。残ったみんなも暫し呆然と
していましたが、我に返ると大慌てで部屋に戻り頭から布団を被って朝を待ち
ましたとさ。