【奇妙な話】 宇宙人

 Sさんのお話


 A君とB子さんがドライブをしていた時のこと、少し日が傾きかけ
た頃でした。
 A君がなにげなく右手の空を見ると、遠くに光の点が見えました。
飛行機が光を反射しているのかと思ったとたん、一瞬にして光が近付
き巨大な物体が空の中に出現しました。いわゆる灰皿を逆さにした形
のものでした。
 A君の感じでは、走る車からの距離は50mくらい、そのもの自体の大
きさは100mくらいだったそうです。そして、あっと思っている内に車
はトンネルの中に入り、それを抜けた時には姿形もなくなっていまし
た。
 A君がB子さんにも確認を取ると、彼女も同じものを見ていました。
興奮の冷めない二人は宇宙人にさらわれたらどうする、などと盛り上
がりながらその日は何ごともなく過ぎて行きました。
 数日後、A君が会社の研修で合宿所に泊まっていた時のことです。
同僚数人と夜遅くまでカードで遊んでいましたが、どうしても眠くな
り一人だけ先に部屋に戻って布団に入り、疲れのためかすぐに眼りに
つきました。
ところが、30分もしたかどうかで、A君は目が覚めました。しかし、
目が開きません。金縛りです。今まで何度か金縛りになったことはあ
りますが、こんなのは初めてでした。
 すると、まぶたを通して窓のある方向に強い光を感じました。ちょ
うど車のヘッドライトを直接こちらに向けられたような感じです。そ
してその光はすぐに消え、次にドアのある方の廊下からヒタヒタと何
者かが歩いてくる足音がし、ドアを開けてA君の部屋に入ってきまし
た。
 A君の恐怖は最高潮に達しましたが、体は無防備に仰向けのままピ
クリとも動きません。
 とうとう何者かがA君のすぐ横まで近付いてきました。すると今度
はまぶたの上で懐中電灯をつけたり消したりするようなチカチカとし
た光を感じました。と同時に頭の中に声が響きます。
――宇宙に行きたいか?
言葉として認識するというよりは感じるというもので、少しも怖いも
のではなく、むしろ優しく暖かいものでした。
――宇宙に行きたいか? 行きたければ連れて行ってやる。
あまりの優しい響きに思わず行くと言いそうになりましたが、彼女の
姿が浮かび、すぐに「嫌だ!!」と強く念じました。と、目の前の光
はすっと消え金縛も解けました。
反射的に目を開けましたが、何者の姿もなく、部屋の中はシーンと静
まりかえっています。すぐに起き上がり、同僚達の所に走りましたが、
誰一人そのような光も足音も知らないそうで、A君は寝ぼけていたと
いうことでかたづけられてしまいました。
 ですが、B子さんだけはこの話しを信じ、A君が行ってしまわなか
ったことを心から喜んだそうです。
 この二人はその後めでたくゴールインしたそうですが、もしその時、
「行く」と答えていたら・・・

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