【怖い話】 プラズマ
Hさんのお話
私が未だ高校生だった頃のお話です。
理由ははっきり覚えていませんが、私は夜中に単車で走り回っていました。
多分蒸し暑くて寝苦しかったんだと思います。
かれこれ一時間くらい走り回ったでしょうか、私は通称『イギス』と呼ばれ
ている山道に単車を止めて、星を眺めながら夜風にあたっていました。
俗に『草木も眠る丑三つ時』等と言われますが、土地の人間さえも滅多に通
ることのない真夜中の山道は、その言葉がぴったり当てはまる程静かで、草木
の寝息が聞こえてきそうな程で・・・・・
等と詩人になりきっている時に、まずい事が起きてしまいました。
別に何かに驚いた訳でもないのに、私の心臓が急に激しい鼓動を始めたので
す。
私はよく『決して物事に動じない冷静沈着な人』だと評価されます。しかし
その評価は誤りで、『鈍い』だけなのです。頭で危険を認識するよりも先に体
の方が反射行動をとってしまうのです。
『これはきっと何かある。まずいな。』と思っていると・・・・・・
ボシュッ
背後から異様な音が聞こえたので、意を決して振り返ってみると、至近距離
にバスケットボールくらいの蒼白い光の玉が浮かんでいました。私が振り返っ
た瞬間に、その光の玉は『炸裂』した様で、バチバチと音を立てて暗闇を局地
的に昼間よりも明るくしてしまいました。
『これは逃げないと・・・・・・』単車に跨ったまま休んでいた私は、すぐ
さま単車を走らせました。虚空に2ストローク特有の排気音が響きわた・・・・
る筈なのですが、私の耳にはまるで電気溶接の様なバチバチという音しか聞こ
えませんでした。
ヘッドライトを点灯しているにも関わらず、私の前方には細長い影がうっす
らと出来ています。これはヘッドライトよりも明るい光源に至近距離から照ら
されている事を意味します。
光の玉は私の背後をぴたりと追いかけて来ていたのです。
喩えようのない恐怖に錯乱状態に陥っていた私は、『いっその事向き直って
みようか』等と考えていましたが、そうこうしているうちに何故か、『熊野神
社の前まで行けば大丈夫』と思えてきたのです。実際郷の鎮守神である熊野神
社が見えてきたあたりで、バチバチ音も細長い影も消えてしまいました。
私は助かりました。
やっとの思いで家に辿り着き、単車のエンジンを止めようとしたとき、私は
ある事に気付きました。
イグニッションがOFFになっていたのです。 そう言えば逃げるとき、ONに
した記憶もありません。
不思議な事に、イグニッションがOFFになっているにもかかわらずエンジン
は動いていたのです。
私はOFFになっているキーをONにひねり、もう一度OFFに戻してエンジンを止
めました。