【怖い話】 声
Tさんのお話。
前に書いた事務員さんのお話です。これはその方の長男が5歳の時の話です。
夏休みに京阪の観月橋駅付近の宇治川の河原で子供会の催しがあったときの
ことだそうです。石投げや鬼ごっこ、虫取りやら水遊びをして子供達が半日思
いっきり遊んでそろそろ帰りの時間が近づいてきました。「○○ちゃんもうす
ぐ帰るよ」お母さんが声をかけたときには友達と一緒に堤防の斜面を上へ下へ
と走り回っていました。と、その時です。その子が急に途中で立ち止まってそ
の場で蹲ってしまいました。転んだ訳でもないのに「変だな」と思って近づい
て「どうしたん」と聞くと、「急にしんどなってん、何か肩がだるい」と言っ
て一歩も動こうとしません。直前まで元気に走り回っていたのにです。
肩や背中をさすったりしても気分は良くならないようです。熱もないし原因
が分かりません。そうしている内に帰りの時間になったのでどうにか堤防の上
まで無理矢理歩かせてそこから駅まではおんぶしなければなりませんでした。
おんぶしたときに「この子こんなに重かったかな」と思ったそうです。する
と「もう帰るの」と後ろから声が聞こえます。その瞬間血の気が引きました。
自分の子供はぐったりしていて喋る元気もないのです。それより何より声のす
る位置がもう一段高い所なのです。そう、子供の頭よりも高い所からなんです。
思わず振り返って子供を見ました。ぐったりしている子供の後ろに何かいる
のが判りました。何かははっきりしません。しかし、少し歪んで風景が見えた
そうです。「もっと遊ぼう」声は引き続いて言ってきます。「ダメ、もう帰る
の」後ろにいる何かに思わず叫びました。しかしまだ何かを喋り続けています。
「ついて来ちゃダメー」と心の中で強く念じながら駅まで汗だくになりながら
走りました。観月橋の駅までようやく辿り着き肩で息をしていると少し離れた
ベンチに座っていた3歳くらいの子供が急に泣き出しました。まだ後ろに違和
感があります。電車が来ました、「あなたもおうちに帰りなさい、この子とは
一緒には遊べないのよ」思わず知らずにそう念じていたそうです。すると背中
がふっと軽くなりました。背中の子供を見るとさっきまで苦しそうだったのが
今は安らかな寝息を立てて眠ってしまいました。
家に帰って聞いてみると遊んでいると急に何かが肩に乗り元気がなくなって
動くのが嫌になってしまったんだそうです。後ろで喋っている声聞こえていた
と言っていました。後でよく考えると河原で亡くなった子供が寂しくて元気な
子供に付いてきたような気がするとその方は言っていました。