【怖い話】 壁の色
Hさんのお話
私の通っていた大学は、学舎の古い順から1号館、2号館・・・・・・と呼んでい
ました。当然1号館は大学設立当初からある建物です。この1号館は、ちょっ
と変わった建物で、まるで軍事要塞を彷彿とさせました。
異様に内部が暗いのです。
私が入学する少し前に、大学は大規模なリフォームを行ったようで、内装は
可能な限り全館統一されていました。例えば壁の色は、だいたい人間の膝くら
いまでがエンジ色、そこから上はアイボリー色で揃えるといった具合です。
しかし1号館だけは廊下の配色は一緒ですが、色の境界が丁度人間の背丈く
らいにされていました。これでは暗い印象をもっても仕方ありません。「悪趣
味な内装だ。悪趣味にも程がある。」私は常々思っていました。
ある日、コンパの席上で、私はあるOB(大学の内部事情に詳しい)に、「何
故1号館の壁の色はあのように悪趣味なのか?」と質問してみました。OBは
眉をひそめながら言いました。『何度白で塗っても、血糊が浮き出てくるから
だ!!』と・・・・・・・
日本国中で安保闘争の嵐が吹き荒れていた頃、私の母校では内ゲバが度々発
生していました。事件は1号館で起こることが多く、襲撃された学生は壁に何
度も打ち付けられ、風説では絶命した者までいたそうです。
エンジ色の壁は、壁に染みついてしまった血糊を目立たなくするための苦肉
の策だったのでした。
エンジ色の中にエンジ色の顔がいくつも浮いている悪趣味な壁の謎が、こう
して解けました。