【奇妙な話】 帽子

 健康法師さんのお話

この話は友人から聞いたものであって私が目撃したものではありません。

この友人はある日いい天気だというので外をサイクリングに出かけました。場所は
どこであったのか私はわかりません。京都の西のどこかであろうと思います。自転
車に乗っていると、中空になにかフワフワ風に乗って浮いているものがあるではあ
りませんか。何だ?と思ってみたら、それは帽子でした。帽子が中空の強い風(?)
に乗って空を飛んでいるのです。どんな帽子だったかと言うと、吹き流しのリボン
のついた女物の帽子であったそうです。それが西の方に向かってフワフワと飛んで
いて、もうそろそろ落下してきてもいいのにと思いながら見ていたのが、それが全
然地面に落ちる気配もなく、相変わらず民家の屋根よりも電信柱よりも高い所をひ
たすら飛び続けていたのであります。

この好奇心旺盛な友人は、この奇怪な帽子が一体何処まで飛び続けるのか見届けよ
うとして一生懸命自転車で追いかけたのだそうです。そうしてついにこれ以上道が
先にないという所まで来て、ついに帽子は落ちず、そのままひらひらと飛び続けて
行ったのです。友人は、ただただ呆れてポカーンとしてその飛び続ける女物の帽子
を見送ったのです。

ところが、次の瞬間その帽子を見続けていた友人はたちまちパニックになりました。
何を見たと思いますか。その帽子が生首になったとか妖怪に姿が変わったとか、...
いいえ、いいえ、そんななまやさしいものを見たのではありません。なんと、その
帽子は、向こうに遠くに見える山の方に向かってそれを背景にして飛んで行くのを
見ていたものが、ちょっと角度を変えて稜線に向かって重なるように高度を下げた
かなと思ったとたん、山の向こう側にパッと消えたのです。つまり、その「帽子」
だと思っていたものは、山に対して十分巨大な代物であった事がわかったのです。

                                 健康法師


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