【哀しい話】 白い靴
Hさんのお話
かれこれ10年位昔になるでしょうか?当時私はまだ学生でした。夏休みに
なり、実家でのんびりしていたある夜、以前交際していた女性から電話がかか
ってきました。「会いたい」との事でした。私はこの女性には、散々煮え湯を飲
まされた過去があったので、ふざけるなのひとことくらい言いたかったのです
が、何故か快く承諾してしまいました。ひょっとしたら私の心の奥底に、まだ
未練があったのかも知れません。
彼女は昔のままでした。当時私は車はおろか車の免許すら持っていなかった
ので、彼女の車で夜のドライブと洒落込む事になりました。行き先は、「海の
見える公園」です。
「なんでこうなるんだろう。大体この女は・・・・・以下略・・・・・」と、心の中で
問答していると、私はある事に気がつきました。
私は彼女の泣いている顔しか覚えていなかったのです。冗談交じりに彼女に
その事を話すと、「笑っている私の事も覚えていて欲しいから・・・・」と、急に
明るくなりました。が、明らかに無理をしています。一体彼女の身に何があっ
たんだろうと考えていると、彼女の車のダッシュボードに妙なものが飾ってあ
るのに気がつきました。
ものすごく小さな白い靴が、透明なケースの中に入っているのです。勘のい
い女性ならば、或はピンとくるのかも知れませんが、私にはただ異彩を放って
いるモノにしか思えませんでした。「その靴は絶対に触らんといてね。」と、
彼女が言ったその瞬間、私の意識の中に別の意識が入ってきました。
どうやら彼女が付き合っていた男性は、ほかの女性と結婚する様でした。
白い靴は、先程からフロントガラスに映っている子供の為のモノの様でした。
かわいそうに・・・・・・・・・・・