【怖い話】つぶれ湖
T君からのお話。
関西の行楽地にT湖と言う場所がある。カップルが行くと必ず別れるとの謂われがあり、別称「つぶれ湖」と言われている。
このつぶれ湖は心霊スポットでもある。幽霊が出ると言われているのだ。
去年の夏にT君達は仲間12名でキャンプを張った。
男6名。女6名の混成チーム。合コンのノリで肝試しに行ったのだと言う。
夕飯のキャンプファイヤーは盛り上がった。ビールの酔いも心地よく廻り、全員気が大きくなっていた。
湖の展望台に出るとの噂だったので、順番に行く事になっていた。
展望台には荒れた気配があり、暴走族の落書きなどもあったと言う。
最初に半数の6人組が行ったと言う。
男3人女3人の組み合わせだ。
行ってみると、まだ新しい花束と線香を上げた後があった。流石に興ざめした者もいたが、酒で気が大きくなっていたのか、蛮勇を示したかったのか? 一人がその花束を踏みつぶし、挙げ句の果てに放尿した。
その男はケラケラと笑っていたが、女性の悲鳴で笑いを止めた。
女性は湖の端を指さし悲鳴を上げている。
そこにいた。
全裸の18歳前後のショートカットの女性である。全身は泥だらけだ。それが襲いかかろうと6人に向かって来るのである。
「走って来るんじゃなくて、手をこう前に出して水平に進んで来る感じでした」
T君はそう言う。
全員、悲鳴を上げてキャンプ場へ逃げ帰った。女の子の一人が「いやだ! いやだー!」と狂ったように泣き叫ぶのが、恐怖を助長させたとT君は言う。
幽霊は途中まで追いかけて来たが、キャンプ場が見える辺りで消えたそうだ。
キャンプ場に残っていたメンバーは色めきたって逃げて来る先発隊を見て全員立ち上がった。
キャンプ場について女の子は抱き合って泣き始める。
「何があった」と尋ねるメンバーにT君は「逃げよう!」と叫んだ。
「裸の女が追いかけてくるんだよ!」
「裸の女?!」
そう聞いて見に行こうと後発組の男三人が展望台へ駆け出した。
「あいつら馬鹿か」
T君らは、そう毒づいたが、恐怖は醒めやらない。とにかく帰り支度をしてると、その三人が血相を変えて逃げ戻って来た。
「いた。ほんまにいた」
「追いかけてくるぞ。逃げろ」
一同は荷物もそのままに車に分乗して逃げ帰った。
すでに深夜である。
車でそれぞれ家に送ると、T君は自室で横になった。恐怖で眠れそうにないので睡眠薬を飲んだ。うとうとしかけた時に金縛りにあった。ぎょっとして目を開けるとあの女が馬乗りに跨っていた。目が怒りで真っ赤に見えたとT君は言う。女は一声腹に響く奇声を発するとT君の右肩に力いっぱい噛み付き消えた。
金縛りから解かれたT君は肩を確認した。歯形が残り血が出ていた。
心底ぞっとしたとT君は言う。
翌朝、メンバー全員に電話したところ、男性陣は全員噛み付かれていた事が分かった。花束を踏みつぶした男は首筋を噛まれていて出血もひどかったらしい。
女性陣は最初の三人が金縛りに遭っていた。
噛み付かれた傷跡は一週間ほどでソフトボール大に腫れ上がった。首筋を噛まれた男は入院するはめになった。
流石に洒落にならないので全員でお寺にお祓いを受けに行ったそうである。
その後、女性陣とは疎遠になった。
やはり「つぶれ湖」なのだ。