【怖い話】髪
Tさんからの話。
私は美容師をしています。
仕事柄お客様には気を遣いますが、手で髪をすくうと、その人の精神状態が分かる時があるんです。
この人は失恋して髪を切るのだなとか、この人は職場の人間関係で迷っているなとか分かるです。
悪い感じの髪は、手ですくと、ねっとりとした油がついている感じがします。
ところで私の勤める店は事故の多い十字路の側にあります。
今は住宅街と商店街の境になりますが、昔はここら一帯が色町だったそうで、私が勤める店も、髪結い所から延々続いている歴史があるそうです。
店そのものは新築してますのでとてもモダンな造りです。
十字路は細く、商店街と住宅街の境にあるためか、接触事故が絶えません。
さて三年前の12月31日の話です。
美容院は年末年始は忙しいものです。その日も予約でいっぱいでした。
昼頃に集配トラックと乗用車の事故が十字路でありました。結構大きな事故でドーンと言う振動が店まで響きました。
トラックに弾き返された格好で乗用車はひっくり返っています。側の社をぶっ壊していました。
さて、妙なのは、その事故があってから、予約キャンセルの電話が鳴りまくった事です。
店長と私を含めたスタッフ三人がスタンバッテいましたが、お客さん来る様子もありません。
夕刻5時頃、店長はスタッフに「今日はあがっていいぞ」と言いました。
仲間が次々と帰る中、チーフである私は残っていました。営業終了まではまだ時間があるし、道具の片づけも店長一人に押しつける訳にもいきません。
店長は私にも帰っていいと言ってくれましたが、家に帰ってもする事はないので、営業終了まで残っていました。
店長が、それならといったん店の奥に引き上げます。
終了間近にドアが開きました。
「いらっしゃいませ」と声を掛けると、そこには貞子が・・・・・
いや別に顔を髪の毛でかくしているわけでもなく、変な歩き方する訳でもないのですが、こう雰囲気が貞子。(^^;)
顔立ちは整っているけど、肌は土色。なんか、もっさい格好で今時の娘とは思えません。
「予約してないんですけど・・・・・」
貞子は言います。この段階で私はかなりビビってました。それでもお客様です。貞子は店の雑紙を手に取ると、あるモデルを指し示し、「こんな感じでシャギーで」と注文をつけます。
普通なら、初めてのお客様には、お客様カードを作ってデータをパソコンに入力するんですけど、何故か私は、そのまま席へとお客様を案内しました。
心の中で店長呼んでいました。なんか恐かったんです。
で、髪を触ると、椿油を腐らせたような臭いがして、じっとりと重い。
いや、臭いはしなかったんですけど、そういう臭いのイメージがするんです。臭いのイメージって体験初めてでした。自殺願望でもあるのかと思う髪でした。
で、席についたお客様、座って無表情でくすくす笑っています。
恐いです。(T_T)
まずはシャンプーをと、髪を洗っておりますと、「お前、何やってんだ!」と背中から店長の声が。
いやぁ。飛び上がるように驚きましたよ。
我に返ると、私、店にある鬘に必死にシャンプーしてたんです。
ここまでの話を店長にしますと、店長ははっと気づいたようです。
壊れた祠。
私達は交通安全のためのものと思ってましたが違うんです。
ここらが花街だった頃、不遇の死を遂げた芸者達への供養の祠だったんです。
「お祓い行って来い」
店長は休みと臨時給与をくれました。
こんなもんで宜しいでしょうか?