【怖い話】 線香

 河合 文月さんの投稿

●線香●
 私が小学生か中学生だった頃の事ですから今から10年以上も前の話です。
 その日はお盆の初日で私も朝から茄子や胡瓜に割り箸をさしたりと色々手伝いをし
ていました。
 迎え火を焚き、家族揃って仏壇に線香を供えていたとき奇妙な話を母や祖母から聴
きました。
 「まだこの世に恨みを残している死者は、線香を供えるとその線香の灰が真直ぐで
はなく、くるーっとカーブする』んだそうです。母の弟が事故で亡くなった時は灰が
火元から円を描く様にカーブしたとか。
 私が初めて聴くその話に驚いている目の前で線香の灰はカーブしてポトリポトリと
落ちていきました。何度線香を供えてもそうなるんです。
 「帰って来たんだねぇ」普通の事のように母や祖母は話しながらリビングへ移動し
ていきました。
 一人取り残された私は遺影と線香を見ながら何だか涙が止まらなくなってしまい暫
く仏壇の前で泣いていました。何故かって?大好きな祖父をその数年前交通事故で亡
くしていたからです。
 信号のない十字路を通過中、一時停止を無視した車に横から追突されて祖父は命を
落としました。即死だったそうです。
 「きっと、おじいちゃんがまだ心を痛めているんだ」私の涙は中々止まりませんで
した。

 ところが、最近その事を思い出し母や祖母にこの話をしたところ「そんな話は知ら
ない」全然記憶に無いらしいのです。それに近年お盆に帰省した時も線香の灰は、普
通に真直ぐに落ちていました。
 私の思い違いなのかもしれませんが悲しくも懐かしい夏の思い出です。

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