【奇妙な話:目覚まし】

 目覚まし代わりに使っていたラジカセが壊れたと愚痴っていると、N女史は笑って言った。
「うちは猫がいるから大丈夫よ」
「はい?」
 意味が分からなかった。よくよく聞けば、N女史が飼っているクロと言う猫に「○時に起こして」とお願いすると必ず起こしてくれるという。
 思わず「嘘だろ?」と応えたら、「私も最初は信じられなかった」とNさんは言う。
 仕事の時間が不規則なNさんは目覚ましを三つセットしても遅刻する事がままあった。 クロはNさんが帰宅するとごろごろと喉を鳴らして、寄り添ってくる。
 ベッドには一緒に入る。
 ある日グロッキーになっていたNさんが、半分ふざけて「クロ〜 明日6時半に起こしてよ。朝から会議なのよ」と言った。クロはNさんの胸の中で「みやー」と鳴いた。
 翌朝、クロがNさんの頬を何度も舐めて起こした。
 目覚めると一斉に目覚ましが一斉に鳴った。
「それでも半信半疑だったのよね」
 Nさんは言う。すでに何度か起こして貰った後の事だ。
 Nさんは目覚ましをかけずに「明日10時に起こしてね」とクロに頼んだ。
 クロはちゃんと10時に起こしてくれた。以来、目覚ましはクロにお願いして生活しているのだと言う。

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