【怖い話:頭突き】
和田さんのお話。
もう随分昔の話だそうだ。
和田さんが住んでいた家は古いアパートだった。隣に変なお婆さんが住んでいたそうだ。
どう変かと言うと、いつも隣から「いぃぃぃぃぃーーーー!!!!」と言う叫び声がしていたのだそうだ。
和田さんも豪胆な人で(ああ、隣の婆イッチャテルなぁ)と思いながら気にせずに住んでいた。
ある日、その話を友人にしたところ、友人はそのお婆さんを見たいと言い出した。
和田さんはあまり乗り気ではなかったが、友人に押し切られる感じになった。
今、思うと酷い事したなぁと思うが、そこは若気のいたり。
和田さんと友人はわくわくしながら、お婆さんの帰宅を待った。
そのお婆さんは毎晩8時頃に帰って来るのだ。
ベランダに出て待ちかまえていると、そのお婆さんが帰って来る姿が見えた。
「あれだよ。あれ」
和田さんが言うと、「どれどれ」と友人が身を乗り出して来る。
二人はお婆さんに気付かれぬようベランダの陰に身を潜めて、お婆さんを見ていた。
すると、どうして気付いたのだろう?
お婆さんは足を止めて二人を見上げた。ばっしりと目が合ったそうだ。
和田さん曰く、半端でない満面の笑顔でお婆さんは笑ったと言う。
二人はマジびびったそうだ。
ベランダから部屋に駆け込み「怖ええよう〜」と笑いながら恐怖を紛らわした。
その数日後、和田さんはコンビニの帰りにそのお婆さんとばったりと出会ってしまった。
内心(うわ!)と思いながら、通り過ぎようとしたら・・・・・
「こんな夜中にうろちょろしてるとおいかけられるよ」とお婆さんは話しかけて来た。
「はぁ・・・・・」と生返事をして、お婆さんと別れ、和田さんはアパートに急いだ。
アパートの自室前にたどり着き、鍵を取ろうとカバンをあさっていたら背後に変な気がした。
和田さんが振り向くと、お婆さんの顔が目の前にあった。
お婆さんは和田さんにひっつくように背後に立っていた。
気を失うくらい恐怖したと和田さんは言う。泣きそうになったと。
「すんません」
と意味不明な事を口にして和田さんは部屋に入った。
その晩。
隣の部屋から壁をどんどんと叩く音が続いたと言う。
和田さんは布団にくるまって、ただ怯えていた。
脳裏に画像が浮かぶのだと言う。
あのお婆さんが正座して壁に向かい、どんどんと頭突きしている映像が頭から離れなかったそうだ。
親御さんに相談したら、すぐに引っ越せと言われて、和田さんは引っ越した。
和田さんは言う。「でも今でもババアの顔は忘れらんない。真後ろに立ってた時のあの顔ね、目がちょーかっぴらいてて。なんかいいたそうなビミョウに開いた口とかね。リアルでしたよ。いや、まじで」