【怖い話】白人の住む家
まささんからの投稿。
私は昨年の七月から現在に至るまでカナダのバンクーバーで暮らしている。
その間に四回の引越しを経験した。
一般に欧米には古い家が多いので、夜になるとそれはもう良い雰囲気になるものである。
これからお話する出来事は、二回目の引越しの時に経験したものである。
その家はバンクーバー郊外にある、退職された年配の方々が多い治安の良い町にあった。
借りていた部屋は、ベースメントと呼ばれる半分地下に潜ったものであり、
広さはおよそ二十畳程もあっただろうか?
窓は北側のみにあり、昼間でも室内は薄暗かったが、その広さと
値段に惹かれて二つ返事で契約してしまった。
八月下旬に住み始めてからしばらくは何事もなく快適に過ごしていた。
しかし、九月も中盤に差し掛かった頃から妙な事に気付き始めた。
夜中に音がするのである。
寝ようとして電気を消しベッドに入ると、壁の中から「カリカリ」と何かを引っ掻く様な音や
天井から「パキッ」と木が折れる様な音、
部屋の隅の方から「シュ〜」と何かが吹き出る様な音が始まるのである。
それもほぼ五秒おきにどこかしらで音が鳴り始めるのである。
これはほぼ毎晩、寝ようとする時に起こった。
ただ、しばらくすると鳴り止むので出来るだけ気にしない様に努めていた。
ある夜、二階に住む大家さんが外出し、夜遅くなっても帰宅して来ない日があった。
時刻は午後十一時。
家の中は私一人。
外は真っ暗でそろそろ眠りにつきたいが、寝るとまたあの音がするのではないかと
ソワソワしていると、その日に限って例の音が始まってしまった。
いつもなら三十分位でその音は止むのでしばらく本を読みながら音が止まるのを待っていた。
しかしその日は何故か一時間待っても音は鳴り止まない。
嫌だなぁとは思いながらも睡魔には勝てず、布団に入った途端である。
その音が前にも増して大きな音で私の周りを囲むかの様に発生し始めたのである。
さすがに驚いて目が覚めてしまった。
しかし起き上がる気にもなれず、じっと布団の中で音が止むのを待っていた。
しばらくすると大家さんが戻って来て、家の中に入る音が聞こえた。
その途端、例の音がピタリと止んでしまったのである。
さすがに「これは何かある」と思ったが、時計を見ると時刻は午前二時。
大家さんに言いに行ける時間でもないし、逆に変な人と疑われてしまうかも知れないと思い、
その夜は寝る事にした。
しかし、夜中にふと目が覚めてしまった。
まだ半分寝ぼけている状態でふいに横を見やると、
何と、私の脇で右足をベッドに乗せた白人の男の子が立っているではないか!
顔は影がかかっていて分からなかったが、上から私を覗き込んでいる様子だ。
瞬間、「泥棒!」と思い、渾身の右パンチをその子供にくれていた。
するとパンチは子供の体をすり抜け、子供は瞬時にいなくなってしまった。
「見間違いか」と思い、ちらりとドアの方に目を向けると、ドアの前には
映画「リング」に出てくる貞子の様に、長い髪を前に垂らしてうつむき加減の
女性が立っている姿が見えた!
この時点になって初めて恐怖を感じ、頭から布団を被って震えていた。
どうしても確認する勇気はなかった。
気付くと朝になっており、多少失禁気味であった。
後日、大家さんにそれとなく「この家はもしかして白人の方が建てたものですか?」と
尋ねると「白人が四十年ほど前に建てたものだ」と言っていた。
それ以上は何も尋ねる事は出来なかった。
その部屋に住み始めて半年が経とうとしていた頃、三回目の引越しを考え始めていた。
色々な物件を当たり、新しい引越し先を決めて大家さんに出て行く事を告げた夜の事。
ベッドに横になりウツラウツラしていると、ドアをノックする音がして目が覚めた。
「大家さんかな?」と思い、立ち上がろうとすると、ドアの向こうから
かすれた女性の声で「開けて・・・」と聞こえた。
その声は大家さんのものではなく、聞き覚えの無いものであった。
以前の出来事を思い出し、絶対にドアを開けてはいけないと感じ、
頭から布団を被ってガタガタ震えていた。
気付くと朝になっており、何事もなく目が覚めた。
その後、引っ越してしまったのであの部屋に何があったのかは分からないが
今でもたまにあの時、ドアを開けていたらどうなっていただろうかと思う。