【怖い話】赤い少年と灰色少女
サボマンさんからの投稿
私がある合同庁舎で警備員のアルバイトをしていた頃の話です。
国家保安及び人権に関連するビルでしたので、詳しくは勘弁してください。
そのビルに黒く大きな犬が現れ始めたのは、私が入隊してそれほど時間がかからな
かった。
4階の職員用トイレの前に伏せの姿勢を崩さず、私を見るとまるで「付いて来い」と
言う様に、
背を向け歩き出す。
私は「絶対に付いてはいかない」と巡回を続けた。
犬は私が付いて来ないのを知ると怒りを露にして唸った。
私は「来るならこい」と身構え、4階の巡回を日々続けた。
そんな毎日に変調をきたしたのは全身灰色の少女が庁舎の前に立つようになってから
だ。
薄汚い毛布を左手に、決して目を合わさないよう俯いてただただ立ち尽くしている、
そんな少女だった。
ある日、それまで微動だにしなかった少女が毛布を手放し、両手を天に向け大きく開
いた。
「ドサッ!」
少女が立ち尽くしていた場所は、職員が飛び降り鮮血に染まった。
庁舎中から職員がわらわらと出てきてはその惨状に目を覆い、ある方は嘔吐し、私は
目的を遂げたかのように去っていく少女を目で追った。
少女は振り返り私を見据えながら霧が消えるように居なくなった。
次に現れたのは少年である。
髪の毛の一本一本からつま先まで、全身艶やかな鮮血で覆われた、私が感じた霊気の
中では最悪な少年であった。
彼は暫く見なかった黒く大きな犬を従え、4階の廊下をまるで遊んでいるかのように
飛び回っていた。
私は「感じる」側の人間であると悟られぬよう、巡回を続けていた。
ある日、私の隊に新人が入隊した。
私は彼を連れ、巡回の仕方を教えるため、ドアのノックの仕方から徹底的に彼を鍛え
た。
この庁舎には所謂官僚と呼ばれる方や、政治家、議員等が頻繁に出入りしていた為、
ノックの仕方一つでも我々警備隊には細心の注意が求められたからだ。
彼を連れて例の4階を巡回していたところ、彼は急に痙攣を訴え座り込み動けなく
なってしまった。
口角からは若干の泡を吹き、目は白目がちになり素人目にも危険な状態であると判断
出来た。
私は無線で応援を呼び、彼が危険な状態で一刻も早く病院に搬送して欲しいと訴え
た。
・・・私にはわかっていた。彼がほぼ助からない事を。
案の定、彼は病院に向かう救急車の中で息を引き取り、数日後彼のご両親に看取った
ことに対するお礼を言われました。
彼の死因は頚骨骨折で、折れた骨が気道を圧迫した為の窒息であったそうです。
彼の頭をを引き千切ろうと大きな黒犬が振り回していたのですから当然です。
私に彼を助けられたとは思いません。
犬の後ろで微笑していた少年は、確実に私を見据えていたのですから。
そんな状況で彼を助けるような素振りを見せれば、少年のターゲットは確実に私に変
わっていたでしょう。
私には彼に刃向かえる力も、攻撃を避ける技も持ち合わせてはいません。
彼はこの国を作られた神々の末裔なのでしょう。
この庁舎は彼の住処を見下ろす位置に建ち、彼らの行き来を阻害する形で作られてい
るのですから。
職員の方の投身自殺は新聞に小さく掲載されましたが、私の後輩の死は事故という形
で表には出ないよう、圧力がかかりました。
投身自殺があったすぐ後の怪死ですから、政府機関としては騒がれたくはなかったの
でしょう。
私はこの隊を辞め、某所の清流で身を清めました。
この少年のせいか私は災神の類に憑かれやすくなり、今現在も某所の鏡岩に呼ばれて
います。
近々詣でて参ります。
この投稿は、若干のフィクションもありますが九分九厘実話です。