【奇妙な話】狐に化かされたら
みゃうみゃうさんからの投稿。
他界するまでずっと同居していた、明治生まれの祖母から、聞いた話です。
東京の女学校を卒業して、学校で教鞭をとっていたこともあり、当時としてはインテリ
だった祖母が、”本当の話”と真顔で話してくれました。
九州生まれの祖母が、お嫁にきた堺という街での体験です。
空襲で焼けてしまう前の、戦前の堺の街の様子を判っていただくために、少し前置きが
長くなりますが、どうぞお付き合い下さい。
当時、”京都の着だおれ”、”浪速の食いだおれ”、”堺の建てだおれ”という言葉があっ
た位で、堺では建物(外壁にも)にお金をかけることに、見得の張り合いをしていた時代
で、”蔵番付”(どこの家の蔵が立派かというランク付け)というものまで堺では売られ
ていたそうです。
また、南蛮貿易が華やかだった中世に街の防御の為に作られた水濠 (歴史の教科書に
載っていたでしょ?) もかなり残っており、その濠に囲まれた内側が堺の中心地となっ
ていて、秀吉の時代に軍事上の理由で大量に建立された寺院が、大変立派な土塀に囲まれ
て、いたる所にありました。
(現在でもお寺はやたらとありますが、当時はそれぞれのお寺の敷地も広く、数も多か
ったそうです。)
そんな戦前のある日、祖母が近所での寄り合いに顔を出したのですが、帰る時にはすっ
かり暗くなってしまいました。
提灯に火を入れ、お供の男衆一人をつれて、子供達の待つ家に夜道を急ぎました。
ところが、普段なら四半刻(約30分程ですよね)で着くはずなのに、ずっと同じ土壁
の角を曲がっていて、歩き続けているのに、家にちっとも近づいていないのに気が付きま
した。
おまけに自分達がどこに入るのか判らなくなっていたのです。でも、夜道はやけに明る
いのです。
さすがに、「これはおかしいわ・・・!」と思い空を見上げると、ぽっかりと二つも月
が浮かんでいるではありませんか。
「これは、狐に化かされているに違いない!」と、祖母とお供の人は確信しました。
「こういうときは、草履で壁をなでると良いと聞いた事があります」とお供の人が言い、
本当に草履を脱いで、近くの土壁をこすりました。
すると、急に憑きものが落ちたように周りの空気が変わり、空を見上げると、月はちゃ
んと一つになっていました。
まわりを見渡すと、普段見慣れた、家の近くのお屋敷のそばに立っていたそうです。
もちろん、二人はその後無事、家に帰ることができました。
それにしても、おばあちゃん、変なものを食べさせられたり、変な場所に落とされたり
しなくて良かったね☆