【不思議な話:白神山地】

 Yさんからの投稿。

本日は世界遺産の白神山地に関する怖いと言うか不思議な話しを一席投稿いたします。

私の住む地域は交通の便が殊の外良く、車やバイクの必要を感じない地域です。
私が免許の必要を感じたのは、NHKで見た白神山地を訪れてみたくなったからで、無い
と不便だからという理由ではありませんでした。
悪戦苦闘の末、取得に成功し、燃費を考えスーパカブを購入致しました。「これでどこま
でも行けるぞ」当時の私は新しいオモチャを与えられた子供のように地図を見ては嬉々と
してリュックを引っ掛けて、十和田湖や猪苗代湖、更には免許取得のきっかけとなった白
神山地にまであしをのばし放浪生活のような旅行を楽しんでいました。
さて、件の白神山地での話しですが、かなり前の事ですので正確には覚えておりませんが、
青森と秋田を結ぶ道路がジャリ道でしたがあったように記憶しております。
その道を道なりにガタガタと走り、地図を確認するともう少しで里に出られるかなという
所で道に迷いました。
それはもう簡単なトラップに引っ掛かるように、スコンと。
道は一本、脇道も獣道さえ無いような所で、信じられない位、見事に迷わされました。
迷い行き着いた所は見るからに清浄な泉で、涌き水がこんこんと溢れ、足元に湿地を作っ
ていました。
そこに招かれて感じたのはのは、あぁ、此処は彼岸に近い場所なんだなぁというのが率直
な感想で、別段怖いとも帰らなきゃとも感じませんでした。
神隠しと言うのは、私のように迷い込み、帰らなければいけないと思わなければ起こり得
るのでしょう。
このような場合の正式な対処の仕方というのは知りませんが、私は「素晴らしい泉をお見
せいただきありがとうございました。そろそろ体が冷えてまいりました。お湯につかりた
いのでお帰し願いたい」と念じました所、まるで合体ロボの合体シーンのように、眼下を
カブで走る自分が見え、その自分に上から重なるように自分が自分に戻って行くのがわか
りました。
戻った瞬間にカブを操る自分の記憶と、泉の前に佇む自分の記憶が入り混じり、一種の記
憶混濁障害を起こしました。
誰も通りがからない道の真ん中にカブを停め、一服。
傾いた太陽は赤く白神の空を染め、私は初めて経験した幽体離脱(でも実態も幽体も互い
に記憶あり)の感覚を確かめるように切符を無くした人のように体中をバタバタと触り、
頬をつねってみたり、意味もなく大声を出してみたりしました。
白神だから出来たのか、それともたまたまのタイミングで白神に居ただけなのか解りませ
ん。
それからしばらくは、熟睡すると行った事の無い地域の景色の記憶が頭に残っていたりし
ておりました。
デジャヴの一言で片付けられない程、鮮明かつ詳細な記憶ですので、多分放浪していたの
でしょう。
ただ、このような放浪をしただろうなという後には、極度の肉体疲労をしていて大変でし
た。
最近はある程度であれば目的地も決めて飛ぶ事も出来るようになりましたし、逆に飛ばな
いように熟睡する術も身につけられました。

白神は他に例えようがない気配がある、不思議な場所です。
ちょっと怖いですけどね。

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