【怖い話】 夢遊病

 Yさんのお話。

 その事件が起こったのは、私が高校三年生の時のことでした。季節は初秋だったと記憶しています。

 掲示板の「神ダーリ」のスレッドで触れた通り、当時私は逸な能力が開きかけていました。能力の開花(?)
は高校二年の半ば頃から始まって、一年間の浪人時代を過ぎ、大学生になってもしばらくは、散発的に暴発
しました。高校二年の時は突然見えてしまったり、悪いモノを呼んでしまったりして怖かったのですが、仙道や
ヨガの本を探し出し、寝る前に自分のベッドの上で静座をすることで何とかバランスを取っていました。静座と
相前後して、夜の散歩に出掛けるようになりました。よる11時から午前2時までの時間帯に、一時間ほど、ごく
近所を歩き回ります。断じて夜遊びではありません(^_^;) 最初はランニングをする為でしたが、結局、夜の雰囲
気を楽しむ事が一番の 目的になりました。
 そんな生活を送っていたからか、よく変な夢を見ました。そして、自分では気が付きませんでしたが、たまに寝
ぼけて居間まで歩いていくこともあったようです。はっきり聞いた訳ではありませんが、両親の言葉の端から推測
すると、少なくとも二度はあったようでした。昼間は昼間で、突然オルゴンが見える時があり、見とれてフリーズして
しまうことがしばしばありました。ちなみに、「オルゴン」という名前は夢想庵で初めて知りましたが、その存在は手
に入れたヨガの本にも書いてありました。確か著者は成瀬雅春、ヨーガ叢書第四巻「ヨーガの呼吸法」です。見開
きの写真で、あやしいオジサンが立って空中浮遊している本です(笑)
 突然開いた感覚に戸惑ってしまう毎日でしたが、普段の友達とのおしゃべりで体験を話したところ、高校一年生
の時同じクラスになり、その後も友達としてつきあいが続いていた女の子が話に乗ってくれました。その女の子は、
それまで仲間内では占いのよく当たる友達として知られていましたが、実は「逸」般人なのでした。タロットを使うとこ
ろを見ると、どうやら魔女の系統だったのでは?と思っています。二年生になると別クラスになりましたが、たまに女
友達が教室に遊びに来ましたし(ただし、同性の友達を訪ねて、です)、高校三年では再び同じクラスになりました。
放課後は、私もその女の子もよく図書館に居たので、話をする機会はいくらでもありました。そこで、よく相談に乗って
貰いました。三年生に上がる頃にはだんだんそのような体験が頻繁になり、逸な女友達にレポートにまとめて体験談を
報せていました。彼女も私も、毎朝クラスメートより少し早く登校していたので、レポートはその時に渡していました。
 さて、冒頭で触れたとおり、夏休みが終わり、肌寒くなってきた頃です。
 いつものように夜の散歩から帰ってきた私は、パジャマに着替えてベッドに潜り込みました。普段通りなら、次の記憶
は朝起きた時のものです。しかし、その日は違っていました。気が付いたとき私は台所にいて、流しの下の収納の扉か
ら果物ナイフを取り出していました。視界は狭くてぼんやりとしか見えません。動きも思考も緩慢で、確かに自分の肉体
であり、自分が動いているのですが、夢の中のような浮遊感があります。隣接する居間に灯りがつき、父と母の声がし
たのを考えると、時間は真夜中から午前1時の間だと思います。
「何をやっているんだ!?」
父が問いかけます。
 私の頭の中には、
「トマトを四つ割りにしよう」
という考えが浮かびます。でも、そのトマトとは、両親の頭のことだと自覚していました。
 私は今頭に浮かんだ考えは口に出さず、黙り込んで途方に暮れていました。どうもうまく体が操れません。
「そんなものはしまって、早く寝ろ」
 突っ立っている私に、父はあわてた様子もなく言いました。相変わらず、私の目には手元しか映らず、居間の方の父と母
の姿は見えません。父の言葉に従い、回れ右を始めました。
 普段から親の言うことを聞く子供でしたが、まさか夢遊病の最中でもそうだとは知りませんでした(^_^;;
 そこで記憶が途切れました。
 次に気が付いたときは朝でした。昨日の夜のことは口にすることもなく、普段通りの朝を過ごし、学校に行ってその話を
女友達にしました。
 話を聞いた途端、彼女の顔から血の気が引きました。私はそこら辺鈍いので、後から考えると、ですが。
 翌朝にはお札を渡され、
「今すぐ、ここで飲みなさい!」
と、真剣な顔で命じられました。お札は掲示板で慎さんに話した通り、川崎大師の物です。教室の向かいにある手洗いで水
を汲み、お札を舌の上に載せて一緒に飲み込みました。
 女友達に、
「お札はいつ手に入れたの?」
と聞くと、
「昨日学校が終わってからすぐに行った」
と、彼女は答えました。高校から川崎大師までは、片道でも二時間は掛かります。
「ありがとう」
私がお礼を言うと、
「友達だから」
と返ってきました。

 その日から二度と、寝ぼけて夜ベッドを抜け出すことはなくなりました。しかし、代わりに不意に哀しみが湧き上がってくる
ようになりました。
 冬になる頃、半幽体離脱が起こり始めました。それも高校を卒業する頃には収まりました。
 時が流れ、今では私もリッパな一般人です( ̄▽ ̄)

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