【怖い話】いけん日
すーさんからの投稿。
あれは私たち夫婦がまだ新婚間もない頃、二人は海釣りにはまっておりまして、その日
の晩も仕事を終え、夜の9時頃から車で和歌山県のとある小さな漁村へ出かけました。
そこは結婚前から何度か訪れていて、浜からどん深になっており、防波堤からの丘っぱ
りでも40cmを越える良型の鯛等が釣れるとても良いポイントで、友達にも内緒にしてい
た場所でした。
ただ、道は狭く、車が一台やっと通る事しか出来ない道幅で、小さな村中をとことこと
走らねばなりません。
そして、単線ですが狭い踏切を渡り、猫の額のように小さな浜にたどり着きます。
大阪から約2〜3時間、その浜へ着いたのは丁度夜中の11時を回った頃でした。
漁村の中を走っていると、村中のお家の犬がこの日に限ってけたたましく吼えるのです。
今までここを何度も訪れているのですがこんな事は始めてでした。
今、思えばこの時、帰っていたならこんなに怖い思いをする事は無かったのでしょう。
犬達の警告を聞いていれば良かった。
でも、釣りをしたい一心の私たちはこの警告をスルーしてしまったのです。
「後悔先に立たず。」
後で嫌と言うほど味わったのですが……
釣りをするのに場所を確保し、道具を出して準備OK!
エサもバッチリ!!
気分良くフイッシング開始です。
ところが……
いつまで待ってもアタリがありません。
仕掛けが悪いのか?潮が悪いのか?
ただ、ここのポイントは多少腕が悪くてもボウズということは無く、海面下を懐中電灯で照らして見ても、小さな雑魚はたくさんいました。
「おっかしーなー??何でアタリこーへんのやろ?」
等と話しながら、釣れなくて暇なので夜食のおにぎりなどを食べていました。
お腹が膨れてくると、目の皮がたるんできます。
「ちょっと明け方の地合いまで寝よか?竿も置いとったらええやん。どーせ、誰もこーへんし、第一、車停めてるとこ通らな浜へ行かれへんから、道具かて、ほっといても大丈夫やんなぁ(^^)」
てな、事に相談は纏まり、二人は踏み切り近くに停めた車まで戻り、シートを倒して仮眠する事と相成りました。
昼間の仕事の疲れもあり、じきにトロトロと睡魔が襲って来ます。
そこに
カン、カン、カン、カン!!
と、けたたましく遮断機の警報音が鳴り響きました。
えっ?こんな時間に電車が走るの?
もう、午前3時前やで!?
びっくりして二人とも飛び起きました。
外を見るとフロントガラス越しに踏み切りの遮断機が見えていますが、普通なら赤く警報が光って、遮断機も下りていますよね?
それが、全く動いていませんでした。
ん? ん? 何故??
と、考える間もなく、今度は和歌山県側から大阪方面に向かって電車の走ってくる音が聞こえます。
ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン
あっけに取られて見ていると、車両の姿は全く見えないのにも係わらず、何故か車両の窓の明かりが漏れているのは見えるのです。
そして、窓の明かりの中にはたくさんの人影が映っていました。
はっ、と気づくと、二人同時に倒していたシートを起こし、エンジンをかけ脱兎のごとくその場を去りました。
二人とも全くの無言で、浜に置いていた道具や、竿の事など気にもかけずに国道沿いのコインスナック(自動販売機がたくさん設置してあるだけなんですが……)へたどり着きました。
自販機の明かりに照らされた主人の横顔は青く、ハンドルを握る手は小刻みに震えていました。
私たちはそのまま、眠る事も、話す事も、車の外に出る事も出来ずに夜が明けるのを待ちました。
朝、6時を回った頃、やっと主人が口を開き、
「道具、取りに行こか。行くのん、嫌やけど、遭難したと間違われたら迷惑かかるし...」
と、しぶしぶ、又、浜まで戻りました。
昨夜は暗くてよく見えなかったのですが、踏み切りの下に海に向かって小さなお地蔵様が立っておられました。
以前に来た時は、何もなかったのですが...
きっと、何かあったのでしょうね。
たまたま、浜に軽トラックで来ていたお爺さんが
「おんしらーの釣り道具やったんけ?ゆんべは、海はいけん日なんじゃ。
道具とりんこんかったら、警察に届けよう思っちょった。引っ張られんで良かったのぅ。」
と、お話して下さいましたが、何が「いけん日」なのかは恐ろしくて聞けませんでした。
電車の窓に映っていた人たちはいったい、どこへ行ったのでしょうか?