【怖い話;三国峠】

 くまととろさんのお話

長文で申し訳ないのですが、ただ一つの体験談を話させていただきたいと思います。

あれはかれこれ10年近く前の話です。

当時、暇は持て余すほどにあれども金はないという典型的な貧乏学生をしていました。

そして、その夏に思い立ったのが自転車での帰郷旅行でした。

埼玉から秋田までという、今思えば正気の沙汰ではありませんね^^;

その道中、三国峠での出来事です。三国峠は群馬県から新潟県へと抜ける国道で、今では関越自動車道が設置されて
いますので、車ならそちらを走るほうが快適でしょうね…( = =)

徐々に険しくなる道すがら、タバコを吸いたくなった私は半分朽ちたようなバスの待合小屋に灰皿が設置されているのを
見つけ、そこで少し休憩を取ることにしました。そこには先客がいらっしゃったのですが、身なりはみすぼらしく、バス停前
に止めてある自転車には薄汚れた大量の荷物と、浮浪者としか思えない風体をしていたことははっきりと覚えています。

普段であれば、嗅覚が敏感かつ、悪臭などで頭痛を催す体質のため、そういった方々には決して近寄らないのですが、
なぜかその時は何の抵抗もなく待合小屋に入り、その人の対面へと腰掛てタバコを吸い始めました。

どちらまで行かれるのですか?これから帰るんだ。など他愛無い会話を交わした記憶があります。

その時点では昼過ぎくらいの時刻でしたが、私は三国峠をすっかり甘く見ていました・・・。

本格的に自転車のトレーニングを積んだわけでもない私には到底登れないような急勾配。ガードレールの下は深い谷。
ひっきりなしに追い越してゆく大型のバスやトラック。交通事故という実際の危険を肌で感じながら自転車を押してひたす
ら登り、最も標高の高い場所にあたる、三国トンネルに着いた頃にはすっかり夜も更けていました。

トンネルの明るさにほっとしながら、平坦な道に久々に自転車にまたがり三国トンネルを通過すると、その先はトンネルの
明かりに慣れた目には一寸先も危ういような暗闇に包まれていました。

仕方なく、道路脇の資材置き場なのか、電源施設なのか、そういったスペースにて明るくなるのを待つことにして横になり
ました。

ひっきりなしに通る車の轟音でとても眠れずに煩悶していたのですが、ふと気がつくと何の音もしません。車通りもすっか
り途絶えているようです。そして、微かな物音を耳にしました。

鈴の音です。それも熊よけの鈴のようなものではなく、托鉢の僧侶が持っている鈴の音に近い音でした。

携帯を取り出し(圏外でした・・・)時刻を確認すると午前一時を回ったところです。この時間に山歩きをしている方がいら
っしゃるとも思えません。ましてや托鉢の僧侶の方などがいらっしゃる可能性は0だと思ってもいいかと思います。

初めは微かに聞こえていた鈴の音でしたが、次第に大きくなっています。つまり、音源である鈴をもった何者かはこちらに
近付いてきているということです。

音のする山側を見ましたが、灯り一つ見えませんでした。人間であれば、懐中電灯なり何がしかの照明は持ち歩いてい
るでしょうから、この時点でようやく私は猛烈な寒気と鳥肌に山を見なくて済むよう、電気設備の建物と思しき建物のシャ
ッターの前でジャケットに包まり、耳を塞ぎ、ひたすら朝を待ちました・・・。

幸い、夜が白み始めると共に鈴の音は止んでいました。気がついたのは車が走る音でようやく意識が外に向いたからで
したが^^;

気になる点は三つあります。

バスの待合小屋で会話した浮浪者のような風体の方から、その手の方特有の臭気が一切なかったこと。

鈴の音そのもの。

そして、鈴の音に恐れをなしていた最中には一度も車が通らなかったことです。

ある程度明るくなるのを待ち、私は即座に自転車に乗り込み、その場を離れました。幸いにもその後はトンネルで妙に車
線側にハンドルが引っ張られる感覚が続いたことや、警察から職務質問を受けたこと、タイヤがパンクして、自転車屋が
ある町まで10キロ以上も徒歩だったことなど、至って平穏な旅路で無事に秋田まで辿りつくことができました。

ほーんと、あの浮浪者と鈴の音は一体なんだったんでしょう。

10年近く経ちますが、今でも気になっていたので、この機会に話させていただきました。

☆三国峠は修験道の場所でもあります。老人はその化身で守護されたのだと思います。
 鈴の音は基本魔除けなので、悪しき怪異には使えません。守られたのだと思いますよ。

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