【怖い話:お迎え】

 りうしんさんからの投稿。

 3月の第一週目の日曜日。
 2月から入院していた父方の祖父のところへ、祖父の姪っ子に当たるT子おばさんが見舞いにやってきまし
た。
 自分が、病院まで案内しました。

 その時、母親が付き添っていました。
 祖父は、ベットの上に腕を伸ばし、しきりに「誰か」と話をしていました。
 二人くらい、名前を呼んでます。
 はっきり聞き取れたのは、名前だけで、あとは何を話しているのかまったくわかりませんでした。
 母親が、
「T子さん、来たわよ」
 と言っても気づかず、目もくれません。


 あの時の7年前には脳梗塞で倒れた祖父でしたが、1月末まではピンピンしていました。
 2月になって、自転車に乗って通院していた病院から「注射をしたら立ち上がれなくなった」と言われ、
迎えに行きました。
 その次の時には様子がおかしい、と即入院。
 検査をしたら見つかったものは、本人も気づかなかった、肺がん。
 大きな肺がんで、静脈に掛かっていて手術は不可能。
 しかし、歳でもあり、本人も無自覚なので、これは問題ないだろう、ということになりました。
 それと、脳内出血だか。
 これもさほど心配ない、とのことで。
 最初に倒れた時以来の主治医の先生は、
「暖かくなったら、良くなるよ」
 と言っていた。
 家族もみんな、そう信じてました。


 声を掛けても、揺すっても、祖父は「誰か」と話しています。
 自分はどうしてそう思ったのか、
(あ、じいちゃんと同じ目線じゃなきゃ見えないのかも)と、仰向けに寝ているじいちゃんの左足元のベ
ットの角に座り込みました。
 そして、祖父が手を伸ばしている空間をじっと見つめました。
 見えたものは、例えるなら陽炎のような靄。
 それが祖父の胸の上辺りにあって、祖父は底へ腕を伸ばしてしきりに話しかけていました。
(あー、暖房のせいか)
 まだ寒い時期だったので、そう思いました。
 祖父の部屋は二人部屋で、仕切りはカーテンのみでした。
 ぐるりと見回したが、エアコンがない。
 エアコンは、カーテンで仕切られている隣のおばあさんの上にありました。
 そして、今は作動していない。
(???)
 となりながら、祖父に目を戻すと。
 祖父は手のひらを広げ、何かを受け取っていました。
 そして、はっきりと、
「わかったわかった、今食べるから」
 というと、手のひらから何かをつまみ、口に運びました。


 その瞬間、

(あー、じいちゃん、もうダメなんだ)

 と、自分は心の中で呟きました。


 何かを食べ終わると、祖父は正気に返ったようで、
「おう、T子。来たのか」
 と、T子おばさんと普通に話し始めました。
 その横で自分は母親に、
「○○と●●って、誰?」
 と尋ねたら、母の答えは「亡くなった人じゃない?」でした。


 T子おばさんを家に連れ帰ると、自分のはとこに当たるTちゃんがT子おばさんを迎えに来ていました。
自分は見送る時に「またね」と、走り出した自動車に手を振りました。

 その「またね」は、一週間後で。
 T子おばさんとTちゃんは、祖父の親戚の内では一番早く、祖父の訃報に駆けつけてくれました。

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