【怖い話】十和田湖の怪
みーこさんからの投稿。
これからお話しするのは、今はなき航空会社の機内誌に旅取材用の
スチール撮影を長年続けていた中でずっと気になっていた出来事です。
平成15年ですからもう9年も前になります。
厳冬の1月に青森空港からレンタカーを借りて青森の主要観光地、
山内丸山遺跡と奥入瀬渓流、そして十和田湖を廻ることになりました。
山内丸山遺跡では五千年前の人々の生活を体験できたり、
野外遺跡群に圧倒されっぱなしでした。
当時の生活習慣や身綺麗に髪を結い櫛をさしていた女達の生活ぶりも知り、
同行ライター女史と「女の心は今も昔も変わらないのね」と、
寒さで震えていた心身がほぐれていくのをおぼえながら遺跡を後にしました。
雪道の奥入瀬渓流に沿いながら十和田湖畔へ到着し、
シベリアから越冬で渡ってきた群れなす白鳥に出逢いました。
至近距離でパンをねだる白鳥達。「こいつら可愛すぎる!」
私は仕事を忘れてレンズ目線をくれる白鳥を撮りまくっていました。
心は白鳥と澄み切った空と透明度が高い湖水にすっかり占領され、
悲しいくらい美しく水面を夕日が照らしていたのを今でも憶えています。
その夜、食事を取ってから私は白鳥に逢いたい一心で、
三十センチ程の新雪を踏みしめ私は一人で外へ歩き出しました。
後方のホテルの明かりを背にすると目の前は漆黒の闇。
「白鳥はどこ?」とズンズン前に暫く歩いた直後四方暗黒になりました。
「え?やばいかも!」と思うやいなや、
行く道来た道、方向感覚が全然わからなくなり、
何処からが湖で何処までが地面が解らなくなり、
あと一歩踏み出したら、湖に落下?とパニックに陥ったのです!
急激に恐怖と寒さに襲われ這い蹲って手探りで前を確かめ、ほふく前進。
知らない人が見たら「雪の中の貞子」と思われたことでしょう。
ホテルの明かりも見えてきて、立ち上がって走ろうにも、
なかなか前に進まないのです。
そう、水中ウオーキングしている時のように、水圧でもたつく体感で、
ものすごい引力というか圧力が私を湖に向かわせているという感じでした。
後ろは振り向かず、「怖い、あっちいけ!怖い怖い怖い!」と
叫んでいたように思います。
私は霊的なものをいっさい視てはいませんが、
この体感と闇、生まれてこの方、
これほどまでに怖いものとは知りませんでしたし、
この時間帯も実際は五分程度のことでしたが、
ものすごく長い時間を要して苦しんでいたように思うのです。
這々の体でホテルに戻り、両手を見たらまっ白で暫く感覚がありませんでした。
翌朝、相方にこのことを話したら、「よく行くよね〜」と軽くあしらわれ、
すごく反省しました。
この日は遊覧船に乗り湖を周遊したり、周辺の風景を押さえる日で、
早速、朝から湖をほぼ一面写し込める場所を探し、峠を撮影ポイントにして、
三脚を立て始めました。
青い空に映える紺碧の水面と雪降り積もる外輪山。
清水を抱くこの二重カルデラ湖は、約二十万年前に大噴火し、
後に山頂部が陥没してカルデラになり、
水が溜まって出来上がったという謂われがあります。
静謐さをたたえている目の前にある風景。
昨夜の恐怖とはまた違う大自然の畏怖、厳しさを感じるのに、
さほど時間が掛かりませんでした。
湖水からの凍てつく強風によって、
みるみるうちに素肌をさらしている唯一の顔、私の口周りの筋肉は、
鈍重な鉛のような重い感覚になっていくのが解りました。
車内の相方に口をきこうにも、口が開かない。
さらに、だんだん全身もかったるく身動きも面倒になっていくのでした。
「え?これって凍傷になるかも!」
直ぐに車内に避難し暖を取ってからまた、外に出てシャッターを切り直す。
その場所に一分もいれば凍傷間違いなしでした。
冬でしたが標高も名だたる山ほどぜんぜん高くない峠、
湖は湧き水があって凍らないと言われていて、
凍っていませんが、晴天下で日陰でもない空中のこの異常な寒風はなに?
と疑問を抱かずにはおれなかった十和田湖取材でありました。
幸い、無事全部の仕事を終え、事故もなく東京に帰れてひと安心でした。
大自然の畏怖、謙虚な姿勢を忘れてはならない貴重な体験だったかもしれません。
※十和田湖とその側の峠は所謂ゴーストスポットとして有名です。
みーこさんは昼間に取り憑かれていたのかもしれません。でないと、夜の十和田湖川辺
へ一人で行こうと思わないでしょう。また、夜に野鳥の写真が撮れるか否かプロである
みーこさんが判断出来ぬ筈もないでしょう。
空気はピーカンの方が冷えるものですが、ここで記述される冷気はやや異常であるよう
に思います。
真夏でも悪霊に憑かれると記述された現象に見舞われます。そう言う方は吐息まで冷た
くなります。
みーこさんは命を落としてもおかしくない危険から生還されて良かったと思います。