【通ずる思い】

 桃子さんからの投稿。

遠い親戚にあたるおじさんが、
永い永い寝たきり生活の末に、数年前に亡くなりました。

私の生まれはとある小さな島で、
島民だれもがまぁ親戚みたいなものなのですが(笑)

そのおじさんとは家も隣で、
田舎なので生活そのものが季節ごとの様々な風習と密接に関連していて、
隣のおじさん家族とはもう、家族同然な仲でした。

おじさんはまだ若いときに奥さんに先立たれ、男手ひとつで子どもを育て上げ、
いつもビシッと背広をかっこよく着こなし、いい車に乗り、
『男やもめと云われたくないから』
と家の中も綺麗で、素晴らしい人でした!

しかし、まだ60才にもならない時に脳梗塞で倒れ、体は麻痺。言葉も話せずに、
食事もトイレも、息子嫁に世話にならずにはどうにもならなくなりました。

誰もがその事実にショックを受けていました。しかし、一番情けなく辛い思いをしている
のはおじさんだろう、と、
皆なおさら悲しく、やはりどうにもならないのでした。

いつしかおじさんは、家の離れに隔離され、TVをつけられたまんま、食事とオムツ替え
以外は離れで放置されていました。

週に何日かはお風呂にデイサービスなどには行っていたように思いますが。。

離れで二十年近く、そんな感じでした。

私は小中高と、遠目に見ていただけで、
何もしませんでした。

小さな地域の田舎では、悪口はタブーです。我が家も、隔離されているおじさんを不憫に
思いつつも、隣の家の方針については何も口出しできずにおりました。

おじさんの息子さんも、お嫁さんも、どうしたらいいのかわからなかったのだろうし、介
護の大変さもあったのだと思います。

ある晴れた午後、おじさんがぽつねんと庭に車椅子で置かれているのを見て、思いきって
話し掛けに行ったのが、最後の会話となりました↓

『おっちゃん、今日はあったかいなぁ』

おじさんは、口の前で手を振り、
「おっちゃん口がもうアカンから」
みたく笑いました。優しい笑顔でした。

時が経ち、田舎を離れて結婚した私に訃報が届きましたが、遠方に暮らしていたため葬儀
には行けませんでした。

(おっちゃん、やっと楽になれたんやな…自由になれたんや…)

訃報を聞きホッとするなんてと不謹慎かもしれませんが、心からおじさんのご冥福を祈り
ました。

帰省した際に隣家を訪れた際に、おじさんの写真とお花が家中に飾られていて、息子さん
もお嫁さんも、おじさんが邪魔なわけではなかったのだと確認できました。

しかし、時が経つにつれ、やはり私にもできる事があったのでは?と後悔が募りました。

雨の日に学校まで車で送ってくれた事…
お菓子をくれた事…

今さらのように世話になった思い出が甦ります。

そこで私は今さらながら、毎朝お線香を立て、お水とごはんを備えながら、おじさんの名
前を呟き、感謝を捧げるようにしました。
お線香の煙に先祖は寄り、感謝される事が霊界では徳を積むことになると聞いたからです。

たまに涙して謝ったり。笑い話をしたり。

一年ほど経ったある朝、夢におじさんが出てきました。

夢で私は見知らぬ美しい女性(しかし若くはなく、60代くらいのご婦人)に呼ばれ、
おじさんが放置されていた隣家の離れに案内されます。

扉を開けると、おじさんが黙って食事しています。
可愛い小さな女の子二人も楽しそうに居て、ピンクの服とリボンでまこと愛らしい。

私は夢の中なのでおじさんは亡くなったのだと気付かずに忘れていて、

(なぁんやおっちゃん元気やん♪)

と嬉しくなって涙しながらみんなにお辞儀し、食事の席につきました。
なぜかハンバーグとお好み焼きが用意されています。

おじさんは終始黙っていました。黙々と食べていたように思います。

私は残念なことに女の子とばかり話して、食事には手をつけないまま目覚めてしまいまし
た(笑)お好み焼きは私の大好物だったのに!!

目覚めて、おじさんが夢に出てくれた事を温かく思い、しかしなぜ出てきてくれたのだろ
うと考えていました。

もしかしてと思い私の祖父に電話して尋ねてみたら、その日はおじさんの命日でした。

命日とお盆に、死者はこちらに帰って来られると聞きます。

おじさんは、毎朝お線香をあげている事、私の後悔を聞き、『聞いているよ』と出てきて
くれたのでしょうか?

昔かたぎでシャイなおじさんだから、黙って、美味しいご馳走を用意してくれたのでしょ
うか。

美しい女性は、おじさんの奥さんかと予想しています、正月帰省したら写真を隣家に見せ
て貰うつもりです!!

小さな女の子ふたりは、隣家の水子ちゃんかな? 

※ただの夢ではなく、桃子さんの情愛が天に伝わったのだと思います。
※いかにも子供が好きそうなメニューですが、口にしなくて正解だと思います。異界の食
 物を口にすると異界の者になります。
※断食などの過酷な修行をしていると、菩薩が水などを飲ませてくれますが、これはまた 別物。ただ人ではなくなります。
※美しい老婦人は奥様ではなく菩薩かもしれません。
※寝たきりの老人介護は個人では限界があります。国が施策を整える必要があります。
※小さな女の子は、おじさんがあの世で面倒を見ないといけない存在でしょう。
※その意味でおじさんはあの世でもきちんと仕事をされていると言えます。
 

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