【怖い話】日本刀
朝子さんからの投稿。
骨董品にまつわることで、怖いというか不思議な体験があります。
まだ実家で生活をしていた時の話です。
家族との関係に気が滅入ることが多く、気分転換と同時に心身ともに強くなりたいと思い、
護身術を習うことにしました。
近くで有名な古武術道場に通い、主に実戦的な空手を習っていました。
その道場主は日常で危険な時に役立つようでないと武術とは言えないという考えで、警察
官が門下生にいたりとする本格的なところでした。
道場は少年部と青年部に分かれており、青年部のみに古武道の抜刀道場を開いていました。
ある日、私は空手以外に木刀や棒術の稽古をしていました。そこへ「君、抜刀道しなさい」
と、いきなり道場主に言われました。
仮練習でいきなり真剣を渡されて素振りをするようにと指示をされ、よく分からないまま、
こわごわ真剣を握って素振りをしました。
「うん、刀を腕の力で止めないで、脇と腰を上手く使っている。基礎が出来ているね。来
週から抜刀道場に来て、練習しなさいね」と、空手よりも抜刀道を強く勧められました。
道場主から見て、私はそちらの方面に見込みがあったようです。
私自身も興味がわいたので続けることにしました。抜刀道には二種類の競技があります。
各流派の形を真剣で素振りをするもの。実際に水で湿らせた畳を丸めた物を切って競うも
の。
私がいた道場では後者の方で、道場の真剣を借りて丸めた畳を切る練習をしていました。
しばらくして門下生の一人から真剣を借りて練習することがありました。道場主は道場で
貸し出している刀よりも、その方の予備の真剣の方が自分に合っていると判断をし、練習
のつど借りていました。
そしてある日のこと。
いつものように門下生の真剣を借りて練習をしている時に、いきなり私の頭の中にある映
像が映画のように鮮明に流れ始めました。
『焼け野の中に立ち、周りには銃声のような音や、ドーンという大きな爆音が聞こえる。
周りの兵士達は日本人。
軍服は昔に観た映画「二百三高地」のような感じで、かなり古い時代。
私は誰かの体の中に意識が入っているようで、その人物の目を通して周りを見ている。
そして右手には私がいつも練習で使っている真剣が握られていた』
そんな映像を、一瞬の間に見てしまいました。
映像があまりに生々しくてリアルで、多分、本当にあったことだと感じました。
練習後、持ち主の方にこの真剣について由来を聞いてみました。
「この刀は、実は骨董品なのですか? 実際に戦争で使われた可能性はありますか?」
「そりゃあ、あるだろうね。それは軍刀で戦で使われたらしいから」
案の定、戦争に持っていった真剣だと知り、その真剣が薄気味悪くなりました。
また戦争の映像以外にも、真剣の本来の持ち主の心身の状況も、私の中に流れてきたのも
不気味でした。
『絶対に死なないぞ。死んでたまるか、生きるぞ』
という強い決意と、早鐘を打つ心臓の音。激しい呼吸。冷や汗。体の震え。
自分が実際に体験したかのように、生々しい感情と体感。
なんとなくですが、あの真剣は人は切らずに持ち主も無事に家へ帰ったように思います。
なぜそう思うかはわからないのですが、あの戦場の光景から凄まじい生のパワーを感じ、
真剣からは血の雰囲気を一切感じなかったからかも知れません
また練習の時に同じような光景を見たら平常心で稽古が出来るのか自信がありませんでし
た。
気を抜けば下手すると真剣で怪我をする危険が強いのです。
結局、私はその道場を辞めました。
道場主は引き留めてくれたのですが、私はどうしてもあの戦場の殺伐とした風景が忘れら
れず、やはり辞退しました。
でも本当に怖かったのは、初めて真剣を握った時になぜか「懐かしい感触だ、いつかただ
ろう」と思ったこと。
そして初めて畳切りをして綺麗に切れた時に「腕一本分の感じだな、これは」と、どこか冷静で懐かしく感じた自分かも知れません。
道場主は心理学の方にも長じており、人には先祖代々の記憶が宿っており、催眠術で先祖
の記憶を掘り出すことは可能と話していました。
私の母方の先祖は武士で、いまだに先祖代々に渡って引き継がれている刀があります。
所有者は本家当主の男と決まっており、女は見るのも触るのもご法度なので、見たことは
ありません。
私が感じた真剣への愛着や人を切るリアルな感触は道場主の弁を通すと私の先祖の記憶に
なりますが、真実はいったいどうなんでしょうか。
ともあれ、かなり好きだった骨董品はあの件以来は苦手になりました。
長々と失礼しました。
※骨董品には茶器や掛け軸などもある。その中で日本刀は異彩を放つ。
※日本刀は平安末期から鎌倉時代にかけて、唐突に完成した姿で現れた。使い手も超一流
の伊藤一刀斎などがいきなり現れている。彼らは神社に籠もり、神から技を授けられて
いる。まるでオパーツがいきなり解禁された様な不気味を覚える。
※この初期の日本刀は古刀と呼ばれ、完成度が最も高い。気品すら漂わすその姿に神を感
じ、奉納されたものも少なくない。
※戦時中、軍刀とされた刀は、刀狩りを逃れ、厳重に守られたものである。日本人の魂を
示すものとして。出兵の際、渡された。刀には魂が籠もっているのである。
※大正・昭和に打たれた新刀は古刀に比べ、気品・性能で大きく劣る。
※江戸時代後期に打たれた刀は切れ味を第一として、実際攘夷打ちなどで多くの血を吸っ
ている。
※人を斬った刀は幾ら手入れしても人脂が落ちず、波紋に独特の曇りを残す。
※私は骨董品店などで刀が並べられたら、その波紋に魅入る。人を斬ったものの妖気があ
ろうなら、妖気を取り入れるべく長時間見つめ合う。
※糾し、購入したりなどしない。手に取るのも希だ。こちらが魅入られては洒落にならな
い。
※美術館などで催される日本刀展などに出品される古刀の神韻渺々とした姿には神を見
る。
※およそ日本刀マニアとは、このように清濁併せ持つものである。
※日本刀で実際に斬る練習をされる方は相性の良い刀を求める。人を斬った刀が練習の場
に出ることはまずない。
※日本刀の切れ味は一級品だから、余計な力を入れず、腰で軌跡を描くように斬る。
※心中は集中しているから、雑念が浮かぶ事は無い。
※朝子さんは感能力が強すぎたのだろう。道場主に事情を話し、雑念を抜く稽古をすれば、
ひとかどの人物になっていおたろうと思う。
※記憶のさかのぼりは祖先に及ぶこともあるが、前世にさかのぼることも可能だ。
※朝子さんの感触は前世に遡るものではないかと推察する。
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