【怖い話】猫の水子
又、私の話で申し訳ない。
つい最近の話である。
愛猫の琴美が行方不明になった。
便所の小窓を開けて脱走したらしい。玄関の戸を夜間、少し開けて帰宅を待った。四日
帰らなかった。普通は一日で帰る。事故に遭ったのだろうかと不安を覚えた。
四日目の夜に私の部屋に駆け込んで来て、やたらと甘えた。
「心配したじゃないか」と語りかけ、抱いて怪我の有無を確かめた。無事だった。その夜
は同じ布団で寝た。脱走の気配はもう無かった。
ちなみに私の部屋は二階にある。一階は応接室とキッチン、今は無人の子供部屋である。
私は滅多に一階には下りない。
琴美が帰って二日目の夜。私は夕食を作るべく一階に下りた。すると複数の子猫の声が
する。微かな声だが切羽詰まった声だ。声は子供部屋の戸袋からする。戸袋はシルバニア
ファミリーの家など人形関係の箱で埋まっていた。その箱の一つから切迫した弱々しい子
猫の声が複数聞こえる。箱を降ろして確かめると、まだ目も開いていない子猫が三匹。す
でに息絶えた子猫が一匹。残った三匹も危ういと判断した私は、子猫用のミルクと哺乳瓶
を用意し、二階の自室でミルクを与えたが、飲み下せない程に衰弱していた。琴美が育児
放棄したのは明かだった。奇妙なのは琴美にサカリの気配も妊娠の兆候も無かったことだ。
子猫の声に琴美が姿を見せた。
「お前の子かい?」
と声をかけると、何も答えず、ミルクの順番待ちをしている子猫から、首を食わえて奥
のタンス部屋へと運ぶ。子猫は全てタンス部屋に運ばれた。鳴き声も止んだ。母親が面倒
見るなら安心だろうと、その夜は寝た。
翌朝、目覚めると琴美が寄って来て、やたらと甘える。「子供はどうした?」と尋ねて
も甘えるばかりで母親モードじゃない。
不安になってタンス部屋に行くと、子猫は皆死んでいた。外傷はなかったが、琴美が殺
したのだと思った。
さて、参ったなと思った。
家は結界を張っているが、結界内部が死の不浄に穢された。ましてや猫は霊獣である。
それが未練の強い水子になった。
「何が起きるかな……」
私は一人呟いた。
その夜の2時半頃、気配に顔を上げると、部屋を締め付けるようなラップ音が響いた。
そして、電灯が点滅する。不規則なラップ音と電灯の点滅が5分程続いた。それ以上の現
象の変化は起きそうにない。
「芸が無い……」
そう呟くと現象は収まった。
翌晩の2時頃、唐突に目覚めた。天井の豆電球が妙に霞んで見える。曇った眼鏡を掛け
ているようだ。目がまた悪くなったのかと思った。意識がはっきりすると、豆電球を中心
に湯気の様なものが漂っていた。
これは供養しないといけないなと思った。
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