【不思議な話】踏切の少女

 投稿が来ないので、私の話をしよう。

 もう三十年前の話である。

 私は通勤するのに毎朝、大きな踏切を渡っていた。
 その踏切は閉まっている時間が結構長く、踏切の両側に人が溢れて待っていた。
 時間帯が同じだから、言葉は交わさぬものの、毎朝顔を見るメンバーが出来る。何とな
く親近感を覚えるものだ。

 その中に赤いランドセルを背負った小学校3年生位の少女がいた。
 少女は常に最前列に居て、紺の帽子を被り、上品な制服を着ていた。私の向かい側に立
っており、踏切が開くと小走りに私とすれ違う毎日だった。利発そうなくりくりした瞳の
愛らしい少女だった。

 ある日、私は踏切の最前列で電車待ちをした。真向かいに少女が立った。ふと目が合っ
たので、私は微笑みかけた。少女はにこりと笑い、胸の前で小さな掌を広げてひらひらと
振った。その愛らしさにつられて、私も手を振った。踏切が開くと、少女は嬉しそうに私
の前に駆けて来た。正面で向かい合って立ち止まると―――
「お兄ちゃんには、わたしが見えるんだね♪」
 明るくそう言うと、とっとっとすり抜けて駆け抜けて行った。

 唖然として、一瞬、立ち尽くしたが、(あれはそう言う者だったのか……。気付かぬも
のだな)と思い出社した。

 爾来、少女を踏みきりで見かけることは無くなった。




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