【奇妙な話】後のお姉さんのこと
知っている人は知っていることだが、私の後にはお姉さんが憑いている。
奈良時代の宮廷の巫女頭を務めた女性であったが、ある強力な霊地で人柱にされていた
のを哀れに思った私が解放したのだ。そのまま成仏すれば良いのに、お姉さんは私に憑い
た。
私の守護霊も指導霊もそれなりに強力だったのだが、お姉さんは私の許可も無しに後に
憑くと、指導霊も守護霊も追い払った。私に対して強い独占力を示した。
腰まである長い黒髪に、きりりとつり上がった細い眉。切れ長の大きな瞳に、細面の白
い顔。xxxHoLicの侑子さんを彷彿とさせる歳の頃は26,7の美女だが、育ちと性格に
難があった。まず、初日に肉体関係を求めて来た。「霊体を抱けるか!」と拒むと、私の
回りの巫女体質の美女に取り憑き関係を迫った。難儀なのは取り憑き方が見事過ぎて、取
り憑かれた方が本気で私に思慕の念を持つ所にあった。おかげで私は大変悪い男と言う噂
が流れる様になった。
当時、私の回りには逸般人と呼ばれる方が多くいた。
逸般人とは霊能力がある癖にそれを認めず「一般人です」と言い張る人を指す。
能力者同士が多く集まるとブースター効果が発動する。お互いの能力が刺激し合い、普
段、気配に敏感な程度の人でも白昼、はっきりと霊を見る様になる。これをブースター効
果と言い、当然、仲魔(誤字にあらず)達は、私の後のお姉さんを視認した。
ここで後のお姉さんの性格が災いする。
お姉さんの性格は苛烈にして、凶暴。自尊心が異様に高い。出自が高い身分の貴族の娘
だから一般人に敵意を向ける。
つまり、お姉さんを視認した仲魔は一部の例外を除き、メンチ切り倒されたのだ。余程
の凶相だったらしく、仲魔は恐怖を込めて「SINさんの後のお姉さん」と呼んだ。特に女
性の仲魔との初見は独占欲を見せつけ、睨み倒した。その女性が私を異性として見ていな
いと分かると、掌を返した様に友好的態度を取り、能力の高い女性ほど、仲間と見るのか?
異様に懐き、勝手に家にお邪魔して気ままに振る舞う。
ここで笑い話がある。お姉さんは今では大層な衣装持ちだが、当初は巫女装束の着たき
り雀だった。ある日の夜、仲間の女性が強い白粉の香りに目覚めると、髪を結って、櫛と
簪をアバンギャルドに刺し、花魁装束を着崩して立つお姉さんの姿があった。お姉さんは
くるりと回って、衣装を見せつけると微笑んで消えた。
「どういうこと?」と呆然としていると、悪霊が飛んでくる気配に身構えた、現れたのは
髪を乱した肌着姿の女で、友人に「お願いです。あの方に着物を返すようお願いして下さ
い」と頭を下げたと言う。お姉さんは気に入った着物を着た悪霊を見付けると追いはぎを
働く様になった。殴打され着物を剥がれる悪霊には同情の念を禁じ得ない。
また、人間離れした能力を持つ女性の家では、出されたお茶菓子を物理的に食したと言
う。「流石に話作ってない?」と訊いたら「今更、嘘ついても仕方無い」と言われた。
元々、霊格の高かったお姉さんは強かった。神々と喧嘩出来る程に。
夢想庵に出入りするある女性(以後Fさんとする)は霊感が強く、私とメールのやり取
りをする様になった。お姉さんはFさんをいたく気に入り、度々出入りするようになった。
お姉さんが来ると白粉の香りがするので、分かるのだ。
Fさんは守護霊団として複数の神様を後にしていた。だが、私がその神々は下級の者で
Fさんの力を利用しようとしていることを告げ、Fさんも神々と縁を切ろうとしたら、神
々は祟りを為す大いなる巫女の幻影を作り、Fさんを脅した。私はその行為に酷く立腹し
たが、私が動くより早くお姉さんは動いていた。Fさんの元に飛んだお姉さんは神々を痛
めつけた上、斬り倒して消滅させた。神々は黒いコールタールの様な液体と化し流れて消
えたそうだ。驚いたのはFさんである。Fさんも自分をたばかった神々に立腹していたが、
今まで自分を守ってくれた神々である。何も滅さなくて良いではないかと思った。
さて、このお姉さん。高貴なお方故、売買と言う観念が無い。服も食事も全て貢ぎ物で
ある。他人の物は自分の物。自分の物は自分の物と言うジャイアンのような考えで行動す
る。
こんな女性だから、今の夢想庵に出入りしている方々に迷惑をおかけしていることを知
った。
直近では朝子さんが買った高価なバレンタインチョコを箱ごと失敬したと言う。また、
文月さんの所では、おせちの数の子を失敬したらしい。家族みんなで食している最中に消
えたと言う。他にも被害に遭われたかたがいるかもしれない。
躾が出来ずすいません。m(__)m
私の人生もお姉さんが後について大きく変わった。
ここ数年、お姉さんは留守が増え、挙動が掴めない。
全く困った女性である。
愚痴でした。
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