三輪山探訪記(3) 平成10年6月20日21日探訪
(雨の大神神社。霊気が漏れているように感じる。) |
みなさん、どうも。
SINです。
6/20(土)桜井駅前に同行の士が集まりました。初日は軽く観光で済ませる事にし
ました。
取り合えず亀石までTAXIで行く事にします。PITさんは益田の磐船へ行きたがって
いたのですが、行くのは何故か運転手さんが嫌がります。
TAXIの運転手さんは我々がどういう集団なのか非常に気になったようです。
色々質問して来ますので、とりあえず、「亀石とか石をを見に来たんです」と応え
ると、それをどういう意味に聞いたのか「すぐ近くに谷首古墳という中に入れる古墳
があるんですよ。地元の方は嫌がって近づきませんが・・・・・」と嬉しげに笑います。
即座にそこへ行って頂くようお願いしました。
車が細い道に入りますと、なにやらピリピリと来ます。印を結んで探知しています
と、目ざとくPITさんが印を封じに来ます。その時、TAXIが止まりました。「ここで
すよ」と指さす場所は探知した丘とドンピシャです。思わず苦笑しました。
PITさんと運転手さんは真っ先に石室へ入ります。この運転手さんも逸般人かもし
れません。
皆も続いて入ります。私は探知鬼さんと顔を一瞬見合わせました。
多少、腰が引けましたが、私も最後に入ります。鳥野ささみさんが「涼しい! 野
菜室にしたい」と言う声が聞こえて来ます。
(やはり、普通の感受性ではないな・・・・・)などと思いながら中へ入りますとコール
タールを流したような闇です。
石室への道に当たる部分で、のれんれんさんと日佳里さんがおられました。
その少し先にPITさんと運転手さんがいるはずですが、姿は見えません。
運転手さんは懐中電灯を、PITさんはペンライトを照らしているのですが、その明
かりが進みません。まるで蛍のような感じです。ライトを持つ人間の顔も照らしてい
ないのです。
石室内の人は見えないのに、人でないモノは見えます。
PITさんはペンライトでそれを追い掛けて遊んでいるようです。
ここで写真を写した所、PITさんはきちんと写りました。光は通っているのです。
(石室は性に合わない・・・・・)
つくづくとそう思います 亀石の側のレンタサイクルで自転車を借りて亀石へ向かいます。田圃の横にのたり
と横たわっています。
(谷首古墳内部。PITさんは明らかに何かをライトで追いかけていた。) | (亀石。上下逆さにすると、頂部にメドーサのような彫刻が見える気がする。目は燭台だったのか?) |
女性陣は可愛いと声を上げています。
私は磁石を忘れた事を悔やみました。亀石の向く方角に何があるのか調べたかった
のです。
私は亀石を見て人の脂を吸った石だと感じました。
ふと横を見るとPITさんの表情も決して柔らかいものではありません。
思えばこの辺りですでに通常のハイキングから逸脱しかけていたのでした。
亀石を後にして私達はミニサイクルに跨り、次の目的地に向かいます。あちこちに
高松塚古墳への道標がありますが、私達が目指すのは「鬼の雪隠」「鬼の俎」です。
「鬼の雪隠」は舗装されていない山道の田圃側に晒されていました。反対側のこんも
りした竹藪に「鬼の俎」があるようです。
鬼の雪隠は古墳の石組みのひとつであるようです。
私はその石にはあまり興味がなく、周囲の地形を分析していました。
で、鬼の俎がある側の竹藪が気になりました。
観光客は石畳の階段を上るようになっています。しかし、その階段の入り口の少し
先には直接竹藪の奥へ行く農道があります。
私はこの竹藪の奥に何かがあると直感していましたので、どちらから登るべきかを
悩んでいました。農道から回るとトンデモ無いモノが見れそうですが、結構怖いモノ
があるようです。
結局、私は石段を登る最後尾に付きました。
そこは小さな広場のようになっており、「鬼の俎」は柵に囲まれてどんと置かれて
います。俎の上には尻尾が切られた母猫と数匹の子猫が座っていました。
猫に興味を示す方々、俎に興味を示す方々、色々でしたが、私は、俎の向こうの竹
藪の奥こそ本物であろうと思いました。
早速、柵を乗り越えようとすると、PITさんが「今回はスタンガン用意しなかった
のに〜」と言いながらついて来てくれます。
パターン通り蜘蛛の巣の攻撃がありました。
刺さない藪蚊も出ます。
少し奥へ入った所で私は足を止めました。そこから先は丘を登る形になっていて、
土の質が違います。ぼこりと崩れたような穴もあります。
PITさんに続いて入って来た虹<2G>さんが「こんな風になっているんだぁ〜」と感
嘆しています。
私はPITさんに、この場所への洞察を口にしました。PITさんもほぼ同意したようで
す。
「じゃ・・・・・これ以上進むのは非礼ですね」
そう言うと「すでに非礼はしているでしょう。死にたいですか?」と応えます。
本日はお気楽なハイキングが趣旨です。竹藪の中では妙齢の女性が何人かこちらを
見ておいでのような気がしますが、ここは戻るのがスジでしょう。
ちなみに虹<2G>さんがここを写した写真は真っ暗だったそうです。
さて、次は・・・・・、レンタサイクルで頂いたアバウトな観光マップでは欽明天皇陵
の側に猿石があるようですが、この地図はどうもアテになりません。実際、後で大変
な目に遭いました。
見鬼君であるPITさんに先行させると、確実に目的地へ行くようです。
私とPITさんは「あの森が濃いですね・・・・・あっちじゃないですか?」などと語りな
がら自転車を漕いでいました。
割と大きな堀と森が見えたので、あれだろうと進みますと、
ところが道路の左側の民家から異様な気が立ち上っているのに気がつきました。探
知鬼ことのれんれんさんの旦那さんも目を剥いているです。民家の先に由緒を書いた
看板があり、皆そこに自転車を止めます。先に行った探知鬼さんが苦笑しながら、私
に向かって民家の奥へ入る路地を指さしています。
そこに猿石があると看板は言います。ある場所は吉備姫王墓。
椿と竹林に囲まれた丸い王墓は石の柵に厳重に囲われ宮内庁の所轄で立入禁止が謳
われていました。
路地を回り南側の門へ行かねば正面を見れない形になっています。
ぐるりと回っていますと、石柵の奥から強い視線を感じました。メンチは切り返す
のが礼儀です。覗き込んでいますと、PITさんに「やめましょうね・・・・・」と諭されま
す。
吉備姫王墓に宮内庁は全く違う名前の表札を立てていました。その名前はメモし忘
れましたので、覚えている方がいればフォロー願います。
王墓の柵の門の内側、ちょうど門の左右に2体ずつ猿石がおかれています。
番人に見えました。
(妖しく写った猿石) |
私は緊張しました。非常に小さな御陵ですが、妖気は強いものがあります。
私はデジタルカメラで猿石を写真に収めようとしました。ストロボ内蔵ですので、少々
の暗さでも問題がないはずです。
が、左側の猿石を写そうとすると上手く行きません。私のカメラは後部の液晶に写すべ
き対象がモニターされるシステムです。
で、この液晶に奇妙な光の映像が走ったかと思うと電源が切れるのです。何度も電源ス
イッチを入れ直しました。
PITさんが面白げな声で「シャッターが下りないでしょう?」と言います。
意地になった私は柵の内側にカメラを突っ込み、気合いでシャッターを押しまし
た。写った映像は快晴の真昼のものとは思えぬ明度のぬめった画像になりました。
門を出ますと、近鉄吉野線の南側の風景が望めます。こうして見るとどの森も古墳
に思えてしまいます。
「飛鳥はもっとのんびりした場所だと思っていましたが、血生臭いのですね」PITさ
んが横に立ち呟きます。
「飛鳥は墓場ですから」と答えながら、ふと思いつきました。「亀石は我々が行く方
向を睨んでいませんか?」
「近い気がしますね」
この辺りを最初に支配していた豪族は誰だっけと思っていると、再び視線が突き刺
さります。見ると足下の畑からカラスが私達を見上げています。
「カラスですよ」と指さすと、それは南の森へ飛び立ちました。南側では特定の森の
梢が奇妙なざわめきを見せています。
胸のざわめきを覚えながら欽明天皇陵に行きます。
流石に大きな古墳です。壕のある古墳がみなさん珍しいようです。
鳥野ささみさんが「全然普通の観光じゃないやん!」と叫ぶ声に失笑しました。
今のところ何も起きてはいません。(けれど、普通の観光では済まないかもしれな
いな・・・・・)内心そう思いました。
その予感は個人的には正鵠を得たものとなりました。
「益田の磐船が見たい!!」PITさんは熱望します。レンタルサイクルで貰った地図では
南へ古墳群を見ながら下れば行けない距離ではないように見えます。(後刻、とんで
もない間違いである事が判明)
近鉄線を渡ります。ここを流れる小川には龍神様が祀ってあったりしました。
踏切を越えますと民家の手前にこんもりした山が見えます。岩屋山古墳です。古墳
が半分切り崩されて家が建っています。
入り口の岩には微かに文字を掘った跡が残っています。
この古墳は荒れた感じでした。不良のたまり場に似た空気を持っています。薮蚊も
多く好きにはなれません。
次は牽牛子塚古墳です。南へ道を登って行きますと左手に濃い丘があります。
(これは尋常じゃないぞ)そう思いながら近づきますと、神社です。ガイドブックに
は記載がない代物ですが、ちょっと寄ってみようと皆を口説きました。
石畳の階段を登り、鳥居を潜るのですが、鳥居は西向き。寂れた小さい神社なのに
結構押し出す圧力をかけて来ます。それが分かる訳ではないでしょうが、「あやしぃ
〜」と女性陣は明るい声を上げながら先頭を切って中へ入ります。やや遅れて鳥居を
潜ったとたん、私の胸にぶら下げていた水晶玉がカイロのように熱くなりました。こ
ういう現象は初めてです。戸惑っていると空襲警報のようなサイレンが頭上で鳴り響
きました。
これには全員肝を冷やしました。
木の上にサイレンがあり、正午の知らせをしたようですが、まるで我々が侵入した
事への警報のようでした。
鳥居を潜りますと参道の左側が山になっています。右側は崖です。
この左の山が御神体のようなのですが、山へ入る石段の入り口には灯篭を建てて、
入れないよう邪魔をしています。神社の縁起でも記したのでしょうか看板が山手の少
し奥にあります。日佳里さんがこれを見ようと近づいたので「その足場は灯篭で
すよ」と声を掛けます。灯篭の傘の部分をわざわざ埋めて足場にしているのです。
踏んで気分の良いものではありませんね。
更に奥へ行きますと山を拝む形で社を造ってあります。拝もうと石段を登ると誰か
に頭をこづかれた気がして、ちょっとムっと来ました。
社に祭神の記載はありません。気のせいか、ここの狛犬は参拝者を睨む配置がきつ
いように感じます。
(巨勢小柄宿禰の霊を祀り、 五郎は御霊(ごりょう)の転訛。 祭神は人頭蛇身といわれる。) | (裏手は弁財天) |
境内を挟んでこの社の正面には荒れ果てた建物があります。
崖の上に建てられているのですが、どういう目的で作ったのかよく分かりません。
PITさんに「本来はこちらに参道があったのでしょうね」と言いますと、「随分昔
に潰されたようですね」と返事が返ります。
PITさんは境内の中央の焚き火の跡を見て苦笑を浮かべます。
見ると火を焚きやすいように石で炉を作ってありますが、その石も古い灯篭のもの
です。探知鬼さんが目をしばたかせていました。
さらに奥へ入るとぐるりと山へ回り込み西側から拝ませる形で社があります。祭神
はと見ますと、弁財天!!
思わず「うわぁ〜!!」と声を上げました。こりゃ尋常ではありません。稲荷ではな
く弁財天で抑えなければならないものがいるようです。
背後から「SINさん、SINさん」とPITさんが呼びます。
ずらりと並んだ灯篭を目で示してなんとも言えない顔をしています。
灯篭には大きく文字が刻んであります。
「三輪大社」「富士浅間神社」「鹿島神社」「春日大社」etc
有名所が揃い踏みです。
これは只の神社ではあり得ません。私はおそらくは古墳であろう山を見上げました。
「水もないのに弁天様ですか・・・・・異国の方かもしれませんね」同じように見上げてい
るPITさんが呟きます。恐らく彼も森から覗く人影が見えているのでしょう。
「ちょっと登ってみます」
私の言葉にPITさんは顔色を変えます。止めるPITさんの言葉は私の耳に入りません。
(正体突き止めたる!!)その一心で私は山に入りました。
それでも付いて来てくれるのがPITさんです。虹<2G>さんも続きます。やたら絡みつ
く蜘蛛の巣を払いのけて進んでいた私は山の中央部の一歩手前で足を止めました。
そこから空気の質が違います。ガラスのように硬質のものに変わっています。
なによりもその存在感・・・・・
「そこからは進めませんよ」
少し距離を置いて背後にいたPITさんが厳しい声色で言います。
「流石に私でも、これ以上は無理ですよ」
そう答えると「では戻りましょう」と、PITさんはそれに背を向けることなく戻り
ます。下りるまで全身から隙が出ないのは流石でした。
後刻になりますが、宿屋の書物でこの神社の正体が分かりました。
許世都比古命神社
巨勢小柄宿禰の霊を祀り、武内宿禰の第五子にあたるので五郎社ともいう。
五郎は御霊(ごりょう)の転訛。
祭神は人頭蛇身といわれる。
私はこの後、ひどい頭痛と吐き気に襲われますが、その程度で済んだのは僥倖であ
ったのかもしれません。
大いなる天の火が大地を焼いていた。ソドムとゴモラを滅ぼしたのもこのような陽
であったかと思わせる日差しだった。
我々は道を見失った旅人であった。オアシスは見いだせず、駱駝もなく、ただ、あ
えぎ進むだけの彷徨者だった。
つう事で迷いました。(苦笑)
牽牛子塚古墳へ向かうはずなのに、集落の中へ入って行きます。
PITさんと私が斥候に立ちましたが、私は頭痛と吐き気で役に立ちません。PITさん
は徹夜明けなのに元気です。見鬼機能を発揮してどんどん進むのですが・・・・・そこは
墓場だぁ〜
なのに喜々として墓場へ入るPITさんって一体何者?
私は自転車を下りてへたばっていました。
彷徨う事1時間余り、ついに牽牛子塚古墳への看板を見つけます。レンタルサイク
ルの観光マップは全くアテにならないようです。こんな事なら最初から自前の地図を
見て行けば良かった。
しかし、その看板を見た辺りで私の吐き気は更に酷くなりました。
(こりゃ、ろくな所ではないな・・・・・)
そう思いながら山道へ入ります。
山道を行けども行けどもそれらしきモノはありません。ここでPITさんが単独で斥
候に立ちます。
山道は日陰になり小休止を入れるには良い場所でした。
時折ウグイスの声が聞こえます。
山道の肌には奇妙な穴があちこちに空いていました。
待ちきれなくなった鳥野ささみさん進みかけた時、PITさんご帰還。
顔が青ざめ硬直しているので、相当の場所なのだろうと想像していますと、「色々
好みの分かれる場所ですが、どうしましょう?」
と言います。ここで鳥野ささみさんが「ここまで来たのだから行きましょう」と予想
通りの突貫ぶりを見せます。
自転車で10分程度の場所でした。PITさんが「ここからは徒歩です」と自転車を
下りた場所から、その森は見えていました。
私は心の中で悲鳴を上げていました。全身に冷たい汗が流れます。
ここで私はついに数珠を取り出しました。それほどに危険な場所です。
「牽牛子塚古墳」
万葉集で歌われる真弓ケ丘にあり、外護列石を持つ八角形墳。斉明天皇陵ではない
かと言われる。
規模は小さいものです。天皇の墳墓としてはあまりにも貧弱でしょう。
が、私にとっての問題はその存在感です。
います。中に完璧にいます。
石室の中を覗けるようになっていますが、私は退散しました。
ささみさん達はその小ささが気に入らないような会話をしています。
ここは未だ現役の場所です。イメージは牢獄ですね。
許古都世比古神社と気の連動があるように感じました。
私にとって二度と近づきたくない場所でした。
気分を変えるべく飛鳥駅で遅い昼食を取った私は次に橘寺の二面石へ向かいました。
橘寺。亀石からやや北へ上がった辺りの小高い丘にそれはあります。
聖徳太子誕生の地と言う伝承を持つ場所です。
最初、その丘を見た時、地形的に見て山城になるなと思いました。周囲を見回すそ
の立地条件は素晴らしいものがあります。
自転車を門前に止めて、参拝料をお払いして門を潜ります。南向きの門を潜ります
と、右側に本堂(太子堂?)があります。こちらは北側から階段を上がって本堂へ入
るようになっています。手水の所では様々なお札が貼られていて面白いものでした。
お寺が苦手な探知鬼さんは、距離を置き、目をしばたかせながら中へ入る私達を眺
めています。未だに頭痛と首を絞められるような息苦しさを感じていた私は、早々に
靴を脱ぎ本堂へ上がると般若心経を唱えました。拝んでいる最中に(ここはお寺なの
か?)と言う違和感を覚えました。なにやら神社のような気がしてきます。
立ち上がり右回りで本堂の奥へ回ります。すでにPITさん達は先へ行っていまし
た。奥へ回りますと左側の壁に立派な不動明王がおられます。丁度東を向いている事
になります。私は首を捻りました。不動明王は魔を縛り、衆生を導く存在ですので、
本来なら参拝者の方向へ睨みを効かしていないとなりません。普通の造りなら不動明
王の向かいには対の壁があるはずです。ここでは向かいは開閉出来るガラス戸になっ
ています。妙な造りだと思いました。更に妙なのは不動明王は壁に穿たれた凹みに安
置されている点です。壁の厚みは小さな部屋程度の空間はありそうです。
首を傾げながら奥の祭壇へ参ります。
そこには苦笑を浮かべPITさんと、首を傾げる日佳里さんがいました。
祭壇に置かれているのは鏡です。
神社の祭祀形式です。橘寺は純粋なお寺と思ってはいけないようです。
この部分が最深部です。ここから右へ回って元の位置に戻るのですが、不動明王の
__________ 視線を避けるように壁が曲がり、そこ
| 鏡 |
には様々な安置物が置かれています。
|
| 歴史的にも資料的にも興味深いモノで
|
| すので、のれんれんさんと鳥野ささみ
|
|安置物 さんが、話し込んでおられます。
|
|_____ PITさんが「上手く誤魔化すな」と
| ̄
* 呟きました。
|不動
*ガ 文章では分かりづらいでしょうから、
|
*ラ 下手な配置図を左に示します。
|
*ス ここを出ますと右側の奥に二面石が
|
*戸 あります。
|
* 二面石。人間の善の面と悪の面を表
したと言うその石は不気味なもので
す。私とPITさんは一瞬その石の前で固
まりました。石の後ろに二股に分かれた木があります。その木の放つ妖気と、悪面石
が睨む方向に最近作られた四角い池の上にある真っ赤な社に驚いたのです。
PITさんは多少警戒しながら、二面石に近づきました。私は動いていません。視線
を動かし位置の把握に勤めます。朱の社の背後は壁でその後ろには墓地があるらしい
山が見えます。唐突にこの二面石は抑えであると同時に方角を示していると思いまし
た。悪面石の側が醜く崩れているのは偶然ではないでしょう。
二面石を調べていたPITさんが頭上の枝を示して私に笑い掛けます。悪面石の上の
枝にのみおみくじが結びつけられているのがおかしいようです。
「この石は方角を示しているのかもしれない」
近づく私にPITさんはそう言います。私は視線で朱の社を示して前へ進みます。
PITさんは近づきたくなさそうです。
手を叩いて社を拝む私に「神社だと思いますか?」PITさんが訊ねます。
「おそらく・・・・・」
そう答えながら私は社を調べます。祭神の記載はありません。敷地内には畳が腐る
ほどに荒れたお堂が幾つもあるのに、半端ではない金額を掛けてこの社を造った理由
がまるで分かりません。分からないようにしてあるのでしょう。
「余程怖かったのでしょうね・・・・・」
その疑問を口にした私にPITさんが応じます。
僧坊前に戻ると虹<2G>さん探知鬼さんがなにやら覗き込んでいます。「阿字池」と
言う小さな池です。上から見ると梵字の「阿」に見えるというゆがんだ円形の池で中
に石が三つあります。
池と言うよりは泉でした。
(この場所で泉が湧くかぁ?)と覗き込みます。かなり深いものです。浮き石に見え
るのは池に打ち込んだ石の柱の上部です。
池の横にはその昔光り輝いたと言う奇妙な形の石があります。聖火を灯す台に見え
るその石は、上部が三つ又に分かれます。長い年月をかけて成長した鍾乳石に似た模
様がありました。
まるで燭台だなと思いました。同時に阿字池の三つの石も妙に平べったのに気付き
ました。
(ここで火を灯すと・・・・・)
(二面石) | (阿字池) | (三光石) |
その想像は怖いものです。ゾロアスターの儀式になります。しかも普通の儀式では
ありません。後刻、合流した小角さんにこの事を話すと「退魔かい!!」と叫びまし
た。そう、それは退魔の儀式です。
この泉は伝承のような人工の物とは思えません。人の技術で作れるとは思えないの
です。この丘は自然の妙によって出来た聖なる場所です。そこで退魔の儀式を行う理
由があるのでしょうか? 先刻の亀石が記憶に蘇ります。なにか想像を絶する出来事
が古代飛鳥であったのでしょうか?
境内の施設の配置を思い浮かべて私ははっとしました。ここのお堂は殆どが人気の
ない荒れたものですが、ひとつだけ始終使われている様子のものがありました。それ
は本堂の不動明王が睨む方向に立っています。
想像通りそこは護摩堂でした。中にはやはり不動明王が立ち、護摩の煙が天上を黒
く染めています。
小角さんの話では不動明王には2種類あります。ひとつは我々が崇める仏法の守護
者。そして、もうひとつはヒンズーにおける破壊神シヴァを現すと言うのです。ここ
の不動明王はどちらでしょうか? 偶然とは言え、私達は亀石にラゴウのような紋様を
見ました。
ラゴウも又破壊神です。
護摩堂の後ろは壁で平野が見渡せます。護摩堂の真後ろにある平野にはかって巨大
な寺院があったそうです。今はその後が史跡になっています。私はそこに取り残され
た森を見つけました。普通の森ではありません。PITさんにそれを示すと、「やぁ、
流石だ! 森の形が自然に社になっている」と嘆息します。
そう。その森は出雲式の社の形を完全に復元しています。
「この土地で・・・・・」PITさんが複雑な笑みを浮かべて呟きます。「厩舎皇子が生まれ
たと言うのですか?」
聖徳太子の生誕奇談を皮肉っているのでしょう。どうにも尋常な場所ではありませ
ん。しかも現役です。
この寺の北門の所でのれんれんさん達が景色を眺めて一服しています。合流しに行
くと、門から向かいの山に立派な塔が見えます。
談山寺です。大化改新の密議の場所がここから丸見えです。とても偶然とは思えま
せん。聖徳太子とは何者なのか? 彼の没後、この土地を抑えていたのは誰なのか?
そんな疑問が胸に浮かびます。
(とりあえず・・・・・)
休憩所でタバコをふかしながら私は思いました。
(あの奇妙な森を調べてみるか・・・・・)
自転車で橘寺を下り道を渡るとその外形が社の形の森があります。
この社に寄るのはPITさんと相談しただけでしたので、他のみなさんは怪訝な顔を
されています。
当然でしょうね。隣(真西)には広大な川原寺跡地が史跡として残っているのに、
私とPITさんは目もくれません。
「濃いなぁ〜」などと言う声を後ろに私とPITさんは森へ入りました。
森の中は広場のようで掃き清められていました。
中央には小さな貧相な社があります。格子は紙張りですが、破れもありません。
どなたが毎日清めておられるのでしょう。
私はどういう錯覚かその社が一瞬とぐろを巻く白蛇に見えたのですが、あながちハ
ズレではなかったようです。
(竜神社。敷地は広いが残るのはこの社のみ) |
「竜神社」
そう記されています。
不動をもって竜を収める。分かり易くて笑える図式です。
PITさんは社の後ろのジメリとした土地を調べています。
近づくと「元は池だったんでしょうね・・・・・地脈が殺されている」そう呟きます。
森からは川原寺の跡地が見えます。炎上して失われた寺だそうです。
「喧嘩売ったんですね。そりゃ燃えるでしょう。この位置では・・・・・」
その呟きを頭上に聞きながら私は座り込んでいました。
ここの地脈は殺されています。確かに・・・・・が、このポイントは未だ機能していま
す。死んではいません。
「龍の道」(我々が勝手にそう呼ぶモノ)があるはずです。
PITさんは私が気を探り始めたのに気付いています。目をついと細めて空を睨みま
す。
背後では石をひっくり返して「虫が出た! 虫が出た!」とささみさんが嬌声を上
げています。虫めずる姫だなと内心思っていると、龍が見えました。
「あれですね」
私は西北の小高い丘を指さしました。
「あれでしょうね」PITさんも頷きます。
その丘の木々だけが他とは異なる揺れ方しています。
「近いからあれも覗きましょう」
「・・・・・」PITさんは微かに眉をしかめて私を見つめました。
「行きましょうか?」と言う答えには嘆息が混じっていたような気がしないでもあり
ません。
その丘には確かに社がありました。
細く急な階段を登らないといけません。地元の方しか行かぬような場所です。農道
の隅に自転車止め、階段を見上げます。
なんだか妙に白く見えます。
声にならぬ嘆息を上げて私はそれを見上げました。
女性陣は「濃い所を見つけるなぁ〜」と喜びながら階段を登って行きます。
PITさんは微苦笑で私を見ます。「やめますか?」
「行きますよ」私は足を踏み出しました。中段の辺りで胸がきゅっと痛みました。
「胸に来ました」そう言うと、「来るでしょうね」PITさんは平然と言います。
「お守り要ります?」
「いや、まだ大丈夫です」
そう答えて私は背後振り返りました。この丘と龍神と直角三角形をなす位置にこん
もりした丘があり大規模な竹藪に覆われています。
(・・・・・あれかい)
位置を把握して上に登ります。すでにみなさんは境内に入っています。
虹<2G>さんが「凄いですよ」と語りかけます。PITさんは参ったと言う表情で首を
振っています。
「(祭神は)何です?」
そう訊ねると「八幡社です」との答え。
「そりゃ胸に来るでしょうさ」PITさんが付け足します。
私は笑いました。分かり易い。実に分かり易い仕掛けです。女性陣は境内の右の端
の樹木の枝がいびつにある方向へ曲がっているのを不審がっています。PITさんがそ
の理由を説明します。
虹<2G>さんは本殿の屋根がおかしいと言います。確かに、屋根に屋根を重ねた二
重構造です。
私は探知鬼さんが後ずさりながら見つめている。石で作られた奥の小さな祠を気に
しました。
(八幡社) | (謎の白社) |
その祠は小さいのに気が尋常ではない。石でなければ保たない類のものが封じられ
ているようです。私は祠の後ろを見やります。
いつの間にか背後に立ったPITさんが「まさか、行くとは言わないでしょうね」と
背中に囁きます。
「まさか、死ぬ気はないですが・・・・・」そう言いながら私は立ち上がりました。そし
て背後の竹藪を指さします。
「あそこの確認だけはします」
PITさんは無言で眉をしかめます。
結局私は一人でその竹藪までは行きました。そこは社はありません。人が長い年月
踏み入れた事がないただの竹藪です。遺跡でもなんでもないのに誰も足を入れない竹
藪でした。
(酒船石) |
酒船石
TAXIで我々はそのポイントへ行きました。
結論を言えば霊的施設ではありません。霊気はないのです。
この丘は人工のものです。我々が行った時はその礎石が発見されたばかりでした。
いずれ本格的な発掘が行われるでしょう。
個人的には観測などの施設だと思います。問題は破壊された部分ですね。そこに
重要な何かがあったと考えます。水に関わる機械的構造の一部でしょう。
向いていた方向は15度程変えられているでしょうね。
この夜は宿にて合流された小角さんを交えて「神霊写真」大会が催されました。
文字は誤字ではありません。
某神社などで撮られたものの開帳なのですが、「ここまで写るのか?!」そういう写
真です。ライブラリーへのアップなどは出来る代物ではありません。話の最中にコン
コンと部屋をノックする音がして、開けに行くと誰もいないので、日佳里さんが硬直
したりしましたが、良くある事です。
日佳里さんは気付いたでしょうか?
ノックは内側からだったのに・・・・・
平成10年6月21日 夏至
その日は朝から雨だった・・・・・
ちょっと洒落にならない降り方です。私は雨は予想していたのですが、多少意地に
なっていまして、雨具は持って来ませんでした。やむなくコンビニに買いに走りま
す。自動ドアを潜ったとたん、蜘蛛の巣が顔にかかりました。なんでこんなところで
と見回すと戸口の上に大きな蜘蛛がいる。流石に幸先の悪いものを感じました。
本格的な雨です。これだとM/A-Shadowさんご家族はキャンセルかなと思いながら大
鳥居へ向かいました。
M/A-Shadowさんご家族はすでに来られていました。流石です。
この段階で脱落者はありません。我々は弐の鳥居をくぐり境内へ入ります。パンプ
キンさんは左の竹藪を気にしています。
・・・・・・・・・・?!
違和感に私は周囲を見回します。
それに気付いた小角さんが言います。「なんだか全然普通じゃん」
小角さんは三輪は初めてではありません。前回は鳥居を潜ると気の質が変わったの
ですが、今回はそれが無いのです。文字通り普通なのです。
小角さんの言葉にM/A-Shadowさんが深く頷いてます。
「そうですね・・・・・」同意しながらも私は納得が行きません。はたしてこの山が普通に
なるなどと言う事があり得るでしょうか?
PITさんを見ると何か思うことがあるのか厳しい表情をしています。
私は空を見上げました。激しい雨を受けて森からは霧が湧きき立つっています。
ある考えに私はぞわりとしたものを背中に感じました。
(結界の境界が弱まっている?)
私は胸中の不安を顔に出していたのかもしれません。PITさんが立ち止まり私を振り
返ります。
「・・・・・大丈夫ですか?」
実を言うと私は朝からあまり体調が良くありません。
「昨日から指先が麻酔したみたいに痺れているんです」苦笑しながら答えると、PITさ
んは眉をしかめます。
雨を受けているからでしょうか? 本殿のご神木は生き生きしています。
M/A-Shadowさんは「雨のお陰で自然の気が強くなって人の縛りが消えている」とご満
悦の様子です。
三輪にお住まいのあちら側の方々はどちらかと言うと自然と融合する方々ですので
、そこかしこに見える方々は皆機嫌が宜しい。
境内はぷんぷんお供えのお酒の臭いがしていますから、あちら側の方々は酔ってい
るのかもしれません。
以前、私が特攻かけた場所が側にあるので確認に行きます。
・・・・・く、暗い!! どんと気の塊が座っている感じです。
流石に近づけません。
「これ普通に見えるけど・・・・・」そう呟くと、PITさんが私の台詞の後を続けます。
「気は抜けませんよ」
この警鐘は後で現実のモノとなります。
狭井神社へ向かう小道でPITさんが「昨日の朝はここに文字があったんだが・・・・・」
と地面を指さします。「綺麗に消えてるや・・・・・」
この辺りで選別がかかっているのではないかと危惧が始まります。
雨はどんどん勢いを増す中、鎮女神社へと参ります。
見える方々は口をあんぐりさせています。いやぁ〜出てる。出てる。
小角さんは目をこすり、探知鬼さんはひきつりながら後退しています。
雨はすでに豪雨のレベルに入りつつあります。
その中で、妙に日の光が差したり、光の玉が浮遊したりと言う現象が起きていま
す。
常ならば頂上付近で見られる現象がここですでに起きています。やはり縛りは弱ま
っています。
(鎮女池・市杵島姫) | (狭井神社・三輪登山口) |
とここまで来て私は困ってしまいました。
後の話が書けないのです。
雨で足下が悪いせいなのか? 体力不足か?
私はまるで誰かをおぶったように体が重くなり、そのおぶった誰かに首でも絞めら
れているような感触で呼吸がままならなくなりました。
最初の岩磐の辺りで私はしゃがみ込み、ついに涙のリタイア宣言をしたのです。
ここで探知鬼さん・鳥野ささみさん・セイラさん・M/A-Shadowさんの娘さんがリタ
イアとなります。
PITさんが「これを預けます」と車のキーを私に握らせます。
私はリタイア宣言しましたが、状況から素直に降りれるとは考えていなかったの
で、辞退しようとしました。
するとPITさんは「これはキーです」と押しつけます。
現世との繋がりを嫌でも持たせるつもりでしょう。ありがたく受け取ると、何故か
人差し指の先が弾けて血が出ました。
探知鬼さん一行が下山して行きます。虹<2G>さんは心底心配して下さり、私の側で
「本当に大丈夫なんですか?」と言って下さいます。M/A-Shadowさんはお守りをくれ
ます。
「大丈夫です」そう答えて私は豪雨の三輪の山中に一人残りました。
かなり長時間一人で残っていました。
豪雨にも関わらず岩磐にのみ太い柱のように光が射す光景はこの世のものとは思え
ません。荘厳です。
そして私は幻を見ていました。ふと気づくと登頂されていた方々が戻って来て、声を
かけてくれます。登頂されて方の話では、後から何人か登って来る人がいたそうですが、
私は生きた人とは出会っていません。自分がどこにいたのか、今でも分からないものが
あります。
そういう訳で殆ど書く事はないのですが、いくつか妙な事があります。
私は杖を袋に入れていたのですが、山から下りるとその袋がお香のような香りを放
つようになっていました。
又、首にかけていた数珠はワイヤーを入れたようにガチガチに固まっていました。
三輪と言うのはやはり凄い御山でありました。