三輪山探訪記(5) 平成11年6月探訪
(吉祥龍穴の滝) |
みなさん、どうも。
SINです。
「なんで、こんなに暗いんや〜!!」
開口一番そうのたまったのは小角さんです。
場所は待ち合わせの桜井のミスタードーナツでした。先着していたPITさんと修羅
さんに私と日出倭さんが同席、一息ついた頃に小角さんとLunaさんが来られたので
す。
「暗いっすかぁ〜?」PITさんはのほほんとした口調で尋ねます。修羅さんは顔も上
げずにパソを見つめています。
(俺のせいかもしれない・・・・・)
私はそう思っていました。
今回の三輪には私は奇妙な感覚を持っていたのです。
現実感がない。
幹事役のような事をやりながら三日前になっても、それが他人事のようで自分が三
輪へ行くと言う実感が湧きません。
電話でその心情を洩らした時、PITさんは「慣れて来たからでしょう」と笑いまし
た。違います。三輪は私にはビッグイベントです。なかなか会えない仲間に会えると
言う一事だけでも躍動感を今までは覚えていました。
今回は自分が三輪へ行くと言う実感が持てません。慣れではない。三輪の霊気は慣
れるものではありません。
目の前にPITさん、修羅さん、日出倭さん、Lunaさんがいる。にもかかわらず、私
はそれが現実のような気がしません。なんだかもの悲しく寂寞とした心地がするので
す。今、こうして書いていて、私は当時の心境が親しい者の葬祭へ赴く心地だったの
ではないかと思っています。
虹<2G>さんが来られて、まずは室生寺へ出発する事にします。
店を出ると雨足はどんどん強くなる気配です。顔をしかめて煙草を吸い、空を睨ん
でいると、「なに、着けば止みますよ」と日出倭さんが言います。確信犯の笑みを浮
かべています。
(迂闊に晴れると怖いだろうな・・・・・)
ぼんやりとそう思いながら、私は車上の人になりました。
桜井の駅から真っ直ぐ行くと最初にT字路にぶち当たります。T字の向こうにこん
もりした山があります。何かの遺跡だと思うのですが、今まで行った事がありませ
ん。寄ろうかと余程声をかけようかと思いましたが、気の質を見て止めました。
(今回の目的じゃないでしょ)
そんな声がしました。
・・・・・目的?
どんな目的があると言うのか? 今の声は誰なんだ?
私は一人眉をひそめます。
今回は車が少なく渋滞に遭う事もなく、すんなりと三輪の地を出ます。
台風による倒木の後、地盤がゆるんでいるのでしょうか? あちこちに地滑りの跡
を見ます。台風による倒木も処理されていない場所が多々あります。
そうこうするうちに前回、PITさんと私が思わず声を上げる妖気を放っていた社を
遠目で見つけます。
今回は前回のような激しい気はありませんが、一応確認しておこうと、スーパーの
前に車を止めます。
山の上に赤い鳥居は見えますが、道は良く分かりません。
PITさんは見鬼能力を発揮して川の方向へ迷わず進みます。
その川を遠目に見て、私は数珠を取り出し、首にかけました。誰かがいきなり使う
かぁと言いました。それには答えず先頭を行くPITさんを見ていると川の端でぴたり
と足を止めて、流れを覗き込んでいます。
何を見ているのかは分かりませんが、そこに気が淀んでいる事は想像出来ます。
淀んだ気が流れる先を見ると、鉄道の向こうに病院があります。鉄道と言う結界が
なければ建物など建てられない場所ですが、それにしても病院とは・・・・・
頭を掻きながら川に近づくとすぐ上流に花が咲いている一角がありました。
手向けの花と言うイメージがしました。
花が向く方向を見ると・・・・・山の一角を削って墓場が!
感覚的には社と墓場・病院は二等辺三角形になる気がします。
PITさんについて行く形で歩を進めます。唐突にPITさんが立ち止まります。私は彼
の横の路傍に社が二つあるのを見つけました。
これに反応したのかと思いましたが、PITさんは犬が臭いを探るような感じで天を
仰ぐと「・・・・・間違えた」と呟き道を戻ります。
社の一つは大日如来。もうひとつは明神のようです。
(路傍に大日如来を置くのか・・・・・?)
首を捻りつつPITさんの後に従います。
(見立ての呪法かな・・・・・)
などと考えていますと、やや広い通りへ出ます。
「昔の街道みたいだね」修羅さんが言います。小角さんは何か感じるのかしかめっ面
で首を捻っています。
「多分、伊勢街道だったんだと思う」と答えるとPITさんがイヤな顔をします。PITさんは
家系的に伊勢は鬼門なのです。
目的の小山は今度はすぐ現れました。斜面をコンクリートで固めてある小山です。
入り口に鳥居があって階段がうねっています。
郵便屋さんが二人下りて来て我々に怪訝な視線を投げ、止めてあった自転車に乗る
と去って行きました。
(なんで二人組なんだ? 上に配達する場所があるのか? 雨の中さぼる場所じゃな
いよな?)
そんな疑問を反芻しながら階段を登ります。逆コの字に曲がる所で派手な倒木があ
ります。PITさんが嬉しそうに「台風の時には派手に暴れられたようですね」と言い
ます。ここでは向かいの山にある墓場が眼前に迫ります。何人かが「ああいう事をす
るかぁ〜」と声を上げます。
病院がある事を指摘すると「ゆりかごから墓場までですね」とPITさんが笑いま
す。
小角さんは「俺はあの病院には絶対入りたくない。出るぞ。絶対出るぞ」と嫌悪を
しめします。
階段を登ると社が見えました。「金比羅稲荷」とあります。
皆、社へ向かいます。私は階段の端でしばし警戒します。
社を見ていたPITさんが私を手招きしました。
「これ偶然だと思いますか?」社の後ろの石垣の赤いシミを示します。
鬼か文字になっていました。
「いや・・・・・」言葉を濁しながら「誰か写真に撮りませんか?」と振りましたが、誰
も写そうとはしませんでした。(後日、PITさんが撮影した事を知る)
(PITさん撮影赤い染み) | (お稲荷さん) |
この社の横に朱塗りの小さな祠がありました。どうもこちらが現在の主のような気
がするので、何か写るかなと写真を撮ると髭面のお爺さんが写りました。昔のお札の
竹内宿禰のような顔です。
(青面金剛・社の中に赤い物はなかった) | (お不動さん) |
ここの造りは水神を祀る古式のように見えます。社の背後石垣の向こうが水場とな
ります。そちらに抜ける道も有りますが、そこに「青面金剛」の社があります。「青
面金剛」が独立するのも妙ですが、社の中には虎の狛犬です。首を捻りながらも写真
を撮ると、左側の扉が赤くなっています。なんだか分かりませんが、あり得ないモノ
を写したようです。( __)_/
ここから裏に回りますと、水場はありませんが、お不動さんの石仏がありました。
セオリーにはあっているのですが、「あれは不動じゃねぇ!」と言う小角さんの一
言が物語るように違和感が強いものです。
誰かがこの場所を作り替えようとしたのだろうと言う話になりました。
私は大日如来が路傍にあった事を思い返しました。
ここが伊勢へ通じる街道になった時、勢力圏的に三井寺の連中が呪法を仕掛けたの
かと思いました。
祀られているのは蛇身の祟神なんだろうと思っていると、背後から竹刀の打ち合う音
がします。山の後ろは小学校でした。
「こういう場所に学校を建てるんですよね」
PITさんが呟きました。
社を出る時、PITさんが足を止め、目を剥くように足下を見つめます。
石が朱色に変わっていました。
皆、しばし無言でした。
誰かが「血の赤だね」と呟きました。
それを合図のように我々はその場を立ち去ったのですが、朱の赤が我々にまとわり
つく最初でありました。
※以後の記述は室生寺異聞と重なります。ご容赦願います。
室生寺へ向けて我々は進みます。雨は止む気配を見せません。
むしろ強くなるようです。これだと吉祥龍穴は洒落にならないかもしれないと思い
ます。
ところどころ土砂崩れの跡を見ながら走っていると濃い神社が点在します。
室生寺近辺に来ますと道路の拡張工事やら舗装工事やらしています。
(話は変わりますが、室生寺へ行くとき大きな赤い橋を渡りますよね? あの橋渡っ
て少し登った辺り、若い女の幽霊いませんか?)
ごんごんと下から突き上げる感触を味わいながら室生寺にたどり着きます。
(話が又それますが、駐車場前、JRの線路下にあった土豪の入り口みたいのはなん
でしょう? 相当規模の大きなもののようですが、凄まじいおどろおどろしさでした
ね)
雨は止んでいました。
日出倭さんが「ほら、止んだでしょう」と得意げに言います。
そして、支給品として瓜生の水を配って下さいました。これはありがたかった。ま
さに恵の水でした。私には。ふと彼がアップした写真を思い出し、「あのさ、赤い腰巻
きは妖怪避けだって知ってた?」と言うと呵々大笑します。
藁葺きの屋根から、橋の板から、白い煙が立ち上っています。唖然として見つめて
いると「霧が出来る現場を見てるんだね!」と修羅さんが言います。私とPITさんは
思わず顔を見合わせ苦笑しました。(心中、煙煙羅と呟いた)
背後で小角さんと日出倭さんが煙の形を問題にしています。
私はレインスーツを着たまま下りました。日出倭さんが「いらんでしょう」と言い
ます。確かに普通はいらないでしょう。晴れて来ています。
けれど私だけはいるかもしれない・・・・・
そんな気がしてならないので来たまま橋を渡り、境内に入ります。
まず感じたのは前回とはまるで違う気です。
実に柔らかい。水があるとここまで違うかと思います。
門を潜ると気が変わるのは以前と同じですが、前回、山の左手上方より圧力掛けて
来たのがいません。今回は包み込むように迎え入れて貰いました。
門を潜り左側にある池をつくづくと眺めます。PITさんがそんな私を微苦笑で観察
しているようです。道の両脇の溝は前回枯れていましたが、今回は雨のおかげで勢い
良く流れてます。
「水があるとここまで違うんだ・・・・・」
そう呟くと「ね、大丈夫でしょう」とPITさんが笑い掛けます。
前回の天神社の階段の前にある憤怒仏の前で「これはなんだろう?」と皆で首を捻
りますが、やはり答えが出ません。
前回は禁足地らしい森の中へ入ったのですが、今回は「大規模な礎石の跡があるん
ですよ」と小角さん一人を特攻させます。
小角さんは「大規模な岩磐」と聞き違えたようでためらいながらも入って行きま
す。あ、蜘蛛の巣に引っかかったなどとほくそ笑んでいますと、いきなり背後から耳
元へ「鬼!」と言われます。
振り返るとPITさんがいました。「本当、鬼ですねぇ〜」嘆息しています。
「そですか?」ととぼけていると、PITさんは小角さんを追いかけていきました。
ああ、なんか人間性で差をつけられた気がする・・・・・
日出倭さん・虹<2G>さん・修羅さんも森へ入った様子です。
私はLunaさんと普通に参道を登ります。
Lunaさんの話では、復興資金を稼ぐために仏様は出稼ぎ中らしいです。
皆、思い思いに散策しています。
私は前回気づかなかった左側のお墓と石仏に気を取られました。
特に石仏ですが、女性が中に入って生きてます。
見つめ合っていると「やぁ、生きてますね」と声がかけられます。
気配を殺して後ろを取ってから声を掛ける癖は止めて欲しいぞ(汗)>PITさん
これは写真に収めるのはやめました。
五重の塔で待っている内に全員集合。
奥の院へ行く事になります。
小角さんが「岩磐なんかないぞ」と私に不満げに言います。
「岩磐?」
「ないわけじゃないですよ。ただ、あそこにはない」とPITさんが答えるので私は訳
が分からなくなります。
小角さんは礎石を岩磐と聞き違えていたのですね。
で、PITさんは上に岩磐があるのを知っているからそういう答えになる訳です。
上を知らない私には、この時は分かりませんでした。
修羅さんが首を捻っています。
お堂の位置が変わっていると言います。確かに変わっていたと答えると、錯覚でな
い事を修羅さんは喜びます。
「結界を変えないと・・・・・」
独り言のつもりで呟くと、
「対処出来なくなったんですね」PITさんが跡を続けます。
奥の院への道は脇に石仏が並んでいます。
この石仏が妙に生々しい。恐らくは実際の女僧を模して作ったのではないでしょう
か? 仏ではなく生臭い彫刻です。
しばらく行くと蜂が飛び交い妖気を放つ崩れたお堂があります。
あんまり血生臭い代物ですので、奇異です。守護印切って近づきます。背後でPIT
さんが「行くんですか?」と非難めいた声を出します。
それでも付いて来てくれる所がPITさん。(^^)
ちょっと覗いて私はげんなりしました。
「何がありましたか?」
尋ねるPITさんに「まぁ、見て下さい」とのみ答えます。
覗いたPITさんは感嘆の声を上げます。お堂の内部の板の壁には無数のざんばら髪
の生首が視覚的に浮き上がっていました。ところどころ血糊さえあります。
写真を写せば確実に写るでしょうが、流石に食指の伸びる代物ではありません。
この室生寺血生臭い事が多々あったようです。
この後、地道が続きます。V字型に下り、又、上るのです。下りきった所に「細
石」にも見える巨石がありました。霊的な石です。
(細石?) | (なんでしょう?(;^_^A アセアセ・・・) |
PITさんにこれが岩磐ですか? と尋ねると笑って首を振ります。
この石の手前では巨木が倒れて道を塞いでいます。
行くんなら覚悟しろよと言われている気分になります。
しばし道を進むと、霧が濃くなって来ました。
ミルク色の霧です。
これは相当かもしれないと緊張します。
他の方々は気にならないのか、歩調は変わりません。いつの間にか私は最後尾にな
りました。
眼前に朱塗りの太鼓橋が現れました。その向こうは岩山で奥の院への石段が急勾配
で続いてます。
私はその光景に思わず息を飲んでいました。たなびく霧にその鮮やかさを失わぬ橋
の朱色。岩山へと続く細い石段。そのまま和製ホラーに使えそうな画面です。
橋は明らかに異界へ通じています。
皆、その橋をすいすい渡って行きます。(誰もがみんな操られているんじゃなかろ
うな?)そんな恐怖すら感じました。
私は破邪の印を切って橋を渡りました。渡ると、本道ではない左側に妙に感じるも
のがあります。
崖下にずらりと地蔵が並びます。石積みもあります。賽の河原でした。
崖の上からはこちらを伺うモノがいます。
早々に引き上げると、微笑を浮かべてPITさんが立っていました。
「やはり、そちらに行きましたか・・・・・」
「賽の河原なんですね・・・・・」
私の言葉に頷くとPITさんは本道に戻ります。顔つきが厳しいものになっていま
す。
石段は勾配のきついものでした。ふと気づくと、ここも墓石を使っていました。
文字通り黄泉路です。
修羅さんが道を外れます。その先にイヤなモノがいたので後に続きます。
「どうしました?」
「いや、滝だよ。お地蔵さんがいたみたいなんだけど・・・・・」
(内心、舌を巻いていると・・・・・)
「なんだってこう赤いんだろ?」と呟きます。
私に返す言葉はありません。
私たちは文字通り黄泉路を上る作業をしていたのです。
滝口から石段に戻ると、休憩所兼お堂のような場所があります。そこから少し進み
ますと、気の質が変わるのに気づきます。神気に近いものに変わっていきます。そし
て右側の山頂あたりからは「厳しさ」を感じさせます。
(賽の河原ですらデコイだったのか・・・・・)
半ば愕然としておりますと、木陰からガーディアンの影がちらほら。
「まるで最初の三輪じゃないか・・・・・」そう呟くと、PITさんが「ああ、兄弟のような
関係かもしれませんね」と頷きます。
頂上のお堂の影が見 えた頃、左手に強力な磁 場を放つ岩磐が見えます。 ぞわりと肌が逆立つ程 の代物ですが、視覚的に 見える程の結界がありま す。 小角さんがいち早く特 攻をかけますので、落ち なきゃ良いけど・・・・・と思 いながら、人身御供とし て様子を見ます。(我な がら鬼畜だな・・・・・) 小角さんは結界にはば まれたようで、戻って来て PITさんと話しています。 後ろで見ていた私には、 おかげで、結界の穴が見 えました。 が、穴には石仏が鎮座します。 遠目にも眼光の鋭さが伺わ れる石仏です。(まるで、小野 篁だな) 特攻は諦めて頂上へ向かい ま。すでに左手上方には斜面に 建てられた金堂?の基礎部が 見えます。柱と張りが組み合わ され、せり出した舞台のような 回廊を支えています。 基礎部の空間になにやらわだ かまった気のようなものを感じま |
|
(岩磐がかすかに見える) | すが、無視して階段を登ります。 |
ぽっかり
頂上では、なにもかもが突き抜けて解放された感じでした。思わず天を仰ぐと空が
近い。
安堵の息と共にレインスーツを脱ぎます。
汗に濡れた腕が露わになり、その腕を風が撫でて行きます。なんとも言えず爽やか
な心地です。
下から見えていた金堂前の休憩所で煙草に火を付けます。
小角さんは右側北東方向の山を気にします。
「あっちには絶対なにかあるぞ!」
「まぁ、あるでしょうけど・・・・・」PITさんが苦笑を浮かべてます。「多分道がないで
しょう」
私は社務所を指指します。「多分、あの裏に道はあるよ。行かしてはくれないでし
ょうが」
日出倭さんは煙草をくゆらせながら何とも言えぬ苦笑でその方向を見てます。なに
か見えているのかもしれません。
社務所の横、ほぼ北の方向に巨大細石としか表現出来ぬ巨石が鎮座します。周囲の
岩とは異質なもので(まさか人工じゃねぇだろうな?)などと思います。
この岩の上には石塔があります。どういう技術で乗せたのか興味がありますが、非
常に近寄りがたい雰囲気があります。
PITさんは調査へ向かいます。虹<2G>さん、小角さんは金堂の中や絵に興味がある
らしく目を輝かせてます。やや、グロッキー気味に見えた修羅さんは横になる場所を
探しに回廊を回ります。
回廊を回ると、力士型の中年男性が三人います。軽く会釈を交わしますが、どうや
ら「逸」な方々のようです。
回廊からの光景は「清水の舞台」を想起させました。「清水の舞台」はここの真似
なのかもしれないと思います。
霧が晴れないので遠景は望めないのですが、先の岩磐が見えました。オーバーハン
グの崖に岩磐が数点あります。
ひどく強い誘いを感じました。
(あそこに座る為にここに来たんだな)
そう思い、ひとり岩磐へ向かいます。結界祓いを行い、石仏の前に出ます。「なん
だお前は?」石仏はそんな視線で睨みます。どうやら江戸時代中期位に作られた感じ
です。口調気迫は武士のものです。
通りますよと心で呟くと、まるで刀の鍔に指をかけるような殺気を放ってくれま
す。まいったなと思っていると、岩磐の奥からお迎えが来ます。それで石仏は嘘みた
いに一切の気を放つのを止めます。
鉄条網を潜る時、ここは本当に危険だから立入禁止なんだと肝を冷やします。
誘いに来た方は腰に差した椿の花が鮮やかです。
座る場所を指し示します。
ちらりと首を出して下を覗きます。遙か彼方下の駐車場が見えます。
(落ちたら死体・・・・・)
ま、いいかと覚悟を決めて禅定に入ります。
ミルク色の靄に肉体が螺旋状に包まれるのが分かります。
座ると同時に深い領域に精神が入り込みます。
ここは神居だ。そう思います。
豪雨で勢いを増した川のせせらぎが妙なる音楽として耳朶を愛撫します。
ここ最近、PITさんにTELすると混戦して来た音と同じです。
あの時から呼ばれていたのかと感心します。
意識は天へと上ります。
雲々の下、山並みが見えます。山並みに共鳴し、せせらぎと和音を成す妙音が雲の上
からします。川は飛鳥へと流れます。ここは飛鳥を潤す拠点なのです。
私の魂は完璧に肉体から離れていたようですが、場と同化した肉体が結界の変動に
反応します。誰か来たようです。鬼なら死体。でも完璧に分離していた私の意識は肉
体が滅する事を問題としていなかったようです。
上から見るとそれはPITさんでした。
鉄条網を潜った段階で、PITさんは妙な仕草をします。結界破りなのでしょうか?
魔払いでしょうか?
彼は周囲をまず見回し、ゆっくりと私の背後へ来ます。細い視線でじっと背中を見
つめた後、私に背中を向け、他に上って来る者を監視するかのように、岩に腰を下ろ
します。口に何か加えているように見えました。
あれは審神の場所。
そう誰かが私に教えます。
PITさんにふさわしい場所だなと思った所で、自分があまりにかけ離れた所へいる
事に気づきます。
戻ろうとした私はPITさんに思念で語りかけました。
「いつも良いタイミングで来ますね」
驚きました。
その言葉は私の口から零れました。
私は未だ天にいます。同時にそのちんけな肉体にも存在します。
PITさんが私の回りを回りながら指を鳴らします。
その度に紅色の散華が輝きます。
「ああ、ああ」と思ううちに意識は肉体へと戻ります。
常にあったミルク色の霧は天高くに消え去ります。
霧が晴れる・・・・・そう思いながら目を開きます。崖下の光景が鮮明になっていま
す。再び結界が動く気配がしました。
PITさんが迎えに行きます。虹<2G>さんでした。
虹<2G>さんが腰を下ろした場所は、弓引きをする者が座る場所でした。
ここは弓引きと審神がいないと座れない場所なのだなと改めて思います。
「毎日、ここで座るような修行をする人がいたなら、そりゃ神掛かりしますよね」
PITさんにそう言うと、「天に一番近い場所ですから」と答えます。
個人的にはこの室生でひとつの節目が終わった気がしました。
私はまるで疲労を覚える事無く山を下りたのでした。
閑話休題
室生寺を出て川を越えた所で、急ぎ昼食を取りました。
座った所は窓際。川面と太鼓橋の裏が見えます。
元々、太鼓橋は神が渡る橋で人が渡る橋ではなかったそうです。
あの逆U字のゲートは洋の東西を問わず神が通る場所です。
ああ、川面に色々・・・・・
橋の裏も色々・・・・・
橋の上行き交う人の足が変。素足? 旅脚絆? (^^;
一路、龍穴神社へ我々は向かいます。
途中、山と山の間に高架道路を通す現場やら拡張工事の現場やらを見ますが、掘る
べき山肌が超巨大な一枚岩の山です。
ちと工事が進みそうにない様子です。
「果敢だなぁ〜」
思わず呟きます。利用頻度もそう見込めそうもないこの場所にそうまでして道路を
通す意図はどこにあるんでしょう?
龍穴神社は手前の敷地に出来た真新しい祠が目につきます。
相変わらず鬱蒼とした木々に囲まれ、水気を孕んだ硬質ガラスのような気に覆われ
ています。尋ねた時間は前回とさほど変わらないと思うのですが、今回は多少明るく
感じます。二回目だから慣れがあったのかもしれません。
すでに室生寺奥の院で目的を達成したような満足感を味わっていた私は、濃厚な気
配を無視して、写真も撮らず、ゆっくりと参拝します。
本殿を拝んだ時、それは来ました。
(せせらぎ・・・・・?)
そう。せせらぎです。龍穴神社は川の側にあるのです。
雨で水量が増大しているので前回よりもせせらぎが大きく響いたのかもしれませ
ん。
でも、私は初めてそれに気づいたような心地がしました。同時に室生寺の岩磐で聞
いたせせらぎが追いかけて来たような気がしました。
本来なら禁足地であろう本殿左奥手。川辺へと私は向かいます。
シダを踏み分けますと予想外の堅い感触が足に伝わります。よくよく観察します
と、赤ん坊の頭のような丸石を台形に積み上げた土台に龍穴神社は建っているので
す。
ああ、ここも人工なんだなと私は嘆息しました。
この構造なら水位が減っても浸透圧で龍穴神社は常に水気に満たされるでしょう。
マイナスイオンも発生して濃密で芳醇な気が常に得られるでしょう。
そして蛇には絶好の巣となるでしょう。
叡知だなと感嘆します。
翌日気づくのですが、三輪にもこの構造があります。
久延彦神社の山の基底部などもこの構造でした。
この時、私はただ感嘆するだけでした。
そして、帰宅して気付きます。
現代でおいても、道路拡張すらままならぬ奥地なのです。ここは・・・・・
近辺の岩とは明らかに石質が異なる丸く加工された岩。その岩をもって土台を構築
する?!
どういう技術がそれを可能にするんでしょう?
ぞわりとおぞけが立ちます。
それは我々が知る文明とは異質なものです。
古来、この辺りから吉野は天人の土地とされ、人が入るのは禁じられていました。
その禁足の意味の一端を知ってしまった気がしました。
畏怖しました。
禁足を破れば代価を求められるのです。
さて、のんきに川へ出ようとして、私はいきなり朱塗りの柱が出てきたので驚きま
す。よくよく見ると、皮が綺麗に剥げた赤松です。木目が輝くほどに磨かれた感じの
地肌は血が流れたような朱の色をしています。
苦笑してさらに進むとコンデンサーが3機置かれています。
(なんでこんな所にコンデンサー?)
首を捻って観察するとケーブルが上流へ伸びています。
台風の倒木を処理する電気のこぎりでも動かすのかなと思いましたが、それらしき
異音はしません。
後でPITさんに訊くと、せいぜい家庭用の電気器具を動かす程度の電圧しか出ない
種類のものだと言います。
では山奥に施設でも作って誰かが生活しているのでしょうか?
何の為に?
吉祥龍穴に行く途中では、山間のワイディングロードに三本家庭用TVのアンテナが
立っているのを私とPITさんは見てます。
どう考えてもTVの地上波が拾える場所ではないのですが、立ってます。
やはり人目につかぬどこかに施設があるのでしょう。
これも帰宅して考えれば考える程、不気味に思えて来るのです。(私だけかもしれ
ませんが・・・・・)
繰り返しますが、禁足を破る事は代価を求められるのです。
原初神道の神々は人の思いに理想化されたものとは違います。圧倒的な力であり、
根元的法則なのです。
端から龍穴神社はその力を人の理想に近づける装置でした。
異端の技術です。
誰かが代価を支払う価値を改めて見いだしているのかもしれません。
だとしたら、その誰かも又、異端なのでしょう。
さてさて、あくまでのんきに川辺に出た私は、清流の下の岩が真っ赤なのに笑いま
す。カメラを構えていると「そこを写しますか?」と背後から声がかかります。PIT
さんが苦笑してます。
私は自分が立っている岩場を示して「ここも人工ですね」と言うと、PITさんはう
なずきながら「木を見ましたか?」と尋ね返して来ます。
肯き返すと「日出倭さんが困惑してました」とPITさんは苦笑します。
境内に戻ると、小角さんがご神木の木を吸い取ってます。
鳥居の辺りで日出倭さんが「るなさんがやばいです」と言います。
遠目で見ますと顔色が白い。
(ああ、入っちゃったな)と思います。
抜こうにも力技で勝てそうにないし、明日の三輪では抜けているだろうと考えたん
で気付かないふりをします。
鳥居を抜けて道路に出た段階で、鳥居から道路を渡って向こうの山へ龍道が通って
いるのに気付きます。臭いはマガツ神。
みなさん泥地を抜けて確認に行かれますが、私は室生寺で貰った清涼な気を使いた
くないので遠慮します。
ここへの行きも帰りもPITさんと修羅さんの回りを蝶が飛んでいたのが印象的でし
た。
龍穴神社横の細いワイディングロードを登って行きますと、再び雨が降ります。
少し登るとガードレールに添うようにTVアンテナが三本立っているので、PITさん
共々目を丸くします。
道には落石・倒木が多く、ちと肝を冷やします。
天の岩戸の前で車を止めます。
細い道路に添うこの神域はやはり奇妙です。
奥の正体不明(と言うか空っぽ?)の社の一部が壊れており、PITさんが補修の仕方
で悩んでます。小角さんはこの社が性に合わないのか顔をしかめてます。
るなさんは未だ気分がすぐれないのでしょうか? ちと微妙な距離を置いていま
す。
天の岩戸の前で写真を写すかどうか迷っていると、妙に嬉しそうな表情で修羅さん
が「あっちへ行ってみよう!(^^)/」と岩戸の間を潜ります。
止める間もなく進みます。
驚いた事に私には墨を流したように見えていた、岩戸の間が、すっと視界が開きま
す。
(そういう仕掛けなのか!)
驚いてしまいます。何十年ぶりかに女性の気を吸ったらしい、その隙間は喜色を示し
ているように思えます。
丁度、合間に立った修羅さんに声をかけ、写真を写させて頂きます。良い表情をさ
れていました。
すっと開いたその道を見ていると、自分も行けそうな気がしました。
男が行く場所ではなさそうなので、共犯者にPITさんを誘いましたが、首を振りま
す。
恐る恐る進みます。
岩戸の間は柔らかいクッションのような感覚でした。
突き抜けると、左手の岩のとっかかりに修羅さんがいました。あまりに近い距離な
ので驚きました。
「崖だったんだね」
修羅さんが言います。
向こう側からはなだらかな斜面があるように見えるのですが、実際は切り立った崖
です。
ここで朝日を拝む行を行っていた頃は結構迫力のある光景が広がっていたのかもし
れません。
吉祥龍穴に向かいます。
雨は止んでいます。
道路から下りる細い階段を、滑らぬよう気を付けて数段下りて、思わず「おお!」
と声を上げます。
真新しい深紅の巨大な鳥居が出来ていました。
と言うのは錯覚でした。
道の両脇の巨木の木肌が綺麗に剥けていて、その艶光りする肌が赤光を放っている
のです。
もうこれは鮮血を塗ったとしか言えぬ色でした。
天然自然に出来た鳥居は初めて見ました。
日出倭さんは声を失っています。
PITさんは何か塗ったんじゃないかと思ったのか、木肌を触って確認してます。
前回は靴を脱ぐのを忘れた舞台の前で裸足になって、舞台から龍穴を拝みます。
をを! 水流が凄いぞ! 本当に龍だぞ!
・・・・・・・・・・なんで岩肌が血の色なんだ?
(何故か流れの下の岩肌は赤い・・・・・) | (滝上流より社を望む。足を滑らせれば滝壺へ直行である) |
滝壺状の下流を見るとなんだか視界が歪む気がした。
首を振って写真を写します。
明度はむしろ前回より暗いのですが、今回は写る。写るぞぉ〜
で、天然一枚板の岩場へ向かいます。
しめったコケが異様に滑る。
ああ、るなさんがすたすた歩いて行くぅ〜(^^;
小角さん、修羅さんが「危ない」と声を掛けますが、気にする素振りもありませ
ん。
私は滝口の側まで行きますが、滑る事には異様な恐怖を感じます。中腰で手足をつ
いて進む姿は哀れです。
違和感を感じます。
前回いたあの女性がここにいない・・・・・
しかし、聖なる水場には変わりがありません。
般若心経を捧げます。
唐突に耳元でぼそぼそと囁きが聞こえます。内心「うわぁーーーー!!!!」と叫びそ
うでしたが、中断したり間違えると意味がないお経ですので、必死で続けます。
唱え終わって周囲を見渡すと近くに人はいません。
(鬼だったんかしら?)
内心怯えながら一番近くにいた虹<2G>さんに「さっき喋りかけましたか?」と尋ね
ますが、首を振ります。
後で犯人はPITさんと判明。上流へ行くと伝えたらしいが、頼むから気配は消さな
いで・・・・・言葉も聞き取れないしぃ〜( ̄▽ ゚̄
周囲を見回すとPITさんの姿が見えません。尋ねると上へ行ったとの事。
(ここで一人で上へ行くかぁ?)
そう思いながらも追いかけます。
先に修羅さん、るなさんが行きます。
るなさん、すたすた歩いていたのですが、すとんと転けます。かなりヒヤリとしま
した。修羅さんが手を差し伸べて起こします。
(やっぱ見込まれているんかな? 取り込みたいのかな?)
などと内心思っていましたが、他人事ではありませんでした。r(^_^;)ポリポリ
なんか私はとろいようで、虹<2G>さん・日出倭さん・小角さんに抜かされ最後尾に
なります。
私が登った時にはPITさんと一緒に虹<2G>さんが下りて来ていました。
PITさんは時々写真を写していますが・・・・・おいおい、何を写す?
上は、霊場であるお滝場を一望するスポットであり、その上の流れは、その時、確
かに異界への道となっていました。
修羅さん、るなさんが笑いさざめきながら足を川につけています。
なにやら天女の水浴びを覗いた漁師の気分で写真を写します。
ここは写真では明度が暗い場所でした。
さぁ、帰ろうと言う段で、私はやたらと滑って進めません。
先行する修羅さんが心配して道を指示してくれるのですが、その方向にも進めませ
ん。そのうち、つるりと滑りました。そのまま体が流れの方向へ滑って行きます。
「あ、やばい!」と思いました。
流れの勢いからして、川まで落ちたら滝壺行きです。
滑り落ちる先には修羅さんが居て、顔色変えてます。
巻き込んではいけないと思い、必死で抵抗したら、修羅さんの足下で止まりまし
た。
修羅さん、怖い思いさせてごめんなさい。m(__)m
「大丈夫?」と声をかけてくれた修羅さんが女神のように見えたのは、言葉のあやで
はありません。
吉祥龍穴を出ると雨が又降り始めていました。
宿に遅れる旨、電話を入れようとしたのですが、車道ではアンテナが立たない。
鳥居を潜りなおして龍穴の敷地に入ると通じます・・・・・
電波事情が良く分からない。(困惑)
雨は、勢いをどんどん増し、ついにはバケツをひっくり返した豪雨となります。
誰か龍を呼んだのかもしれません。
お宿の大正楼さんは、私・PITさん・修羅さんは三度目となりますが、後の方は初め
てです。
さきにずぶぬれでお宿に入っていた杉山さん、アポロさんとご対面。
私はアポロさんとはお初でした。
お二人とも真っ先に宿の濃さを口にされます。
通されたお部屋は一番奥のはずなのですが、何故か向こう側から人の気配が・・・・・
濃いのも当然。中庭にはお社が祭られています。
宴会の最中、中庭から終始「ゴロゴロ」と遠雷のような音がしたのは気のせいでし
ょう。
部屋のツボも・・・・・濃い。
宴会写真も中庭バックにすると知らないメンバーが写って楽しかったです。
いよいよ三輪山探訪となる訳ですが・・・・・困った。
記憶が極めて断片的で抽象的です。
夢を思い出すようなもどかしさがあり、現実の光景としての記憶が蘇りません。
かと言って書かずにいるとどんどん忘れそうなんで、文体変えて記録します。しば
しお付き合い願います。
「青い・・・・・」
翌朝、空を見上げた第一印象がそれだった。昨夜の豪雨が嘘のように晴れ渡ってい
る。もともと低血圧で朝食はあまり食べない私だが、その日は調子が良かった。朝飯
はおかわりした。
大神神社駐車場でM/A-Shadowさんご一家と合流して境内に入る。
参道で違和感を覚える。
「なんにもないでしょ?」
そう語りかけて来たのはM/A-Shadowさんだったか、PITさんだったか・・・・・
とにかく気配が皆無である。普通の山にハイキングに来た心地がした。
もっとも、私は室生寺奥の院での体験が強烈で、あれで今回の目的は殆ど終わった
気でいたので、失望はなかった。
本殿前の道路で右側から妙な気の流れを感じる。
PITさん、M/A-Shadowさんはいち早く探知していたようだ。
本殿からすぐ右へと向かう。
私はいったん本殿を拝む。(いつになったらここの修復は終わるのだろう?)
ご神木の杉の前にはるなさんと日出倭さんがいる。
日出倭さんは気を吸引しているようだ。るなさんは何か願い事をしているように見
受けられた。
しばし遅れる形で私はPITさん達の後を追った。朱塗りの太鼓橋を渡ると猫がい
た。一見で分かる使い魔だった。
声をかけると、猫は顔を上げて私を見た。
この辺りの杉や石を見上げるような顔つきだった。そして木石同様に無視した。
少なからず傷ついた。
猫にはもてると自負していた。石ころなみに扱われるのは初めてであった。
と、猫は表情を変えて空を見上げた。その視線に半ば敵意と警戒がある。
カラスでも来たのか空を見上げると、黒い気の塊が五つばかり、天皇社の方向へ飛
んで行く。PITさんとM/A-Shadowさんが行った方向だ。
誰かろくでもない事をしているなと思う。
ああいうのに関わる気がないので、手前の祖霊社に参る。
初回ここでは大蛇を従えた少女の幻影を見ているのだが、今回は彼女がいる気配が
する。初回同様結界破りをしようかとも思うが、身の危険を感じてやめる。
社を出ると、戻って来たPITさんと合流する。
PITさんはなにやら悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
「なにかありました?」
そう尋ねると「面白い事やってる集団がいました」と言う。
PITさんはM/A-Shadowさんと「とんでもない奴らがいるねぇ」と話している。なん
か二人は妙に嬉しそうだ。
私はダークサイドに触る気になれなかっあので、ここもパスする。
狭井神社への参道を歩いていると池が復活していた。
狭井神社に入る前に、市杵島姫には挨拶したかったのだが、なにやら妙なものに憑か
れているらし家族が動かない。
近づくと悪影響を受けそうなんで、正面からではなく横から、参拝の気を送る。
帰って来た反応が妙に若いのでとまどった。
狭井神社境内に入った時に違和感はさらに大きくなった。
「ここは三輪なのか?」
とにかく、ことさらに明るい。
修羅さんが「オルゴン降ってる?」と尋ねる。わざわざ確認しないと分からない量
で降り注いでいる。
しばらくはハイキングコースだった。山吹色の蝶がつかず離れず常に飛び交ってい
た。今回の三輪はこの蝶に象徴されるかのように金色に輝いていた印象がある。
お滝場には異様な宗教団体がいて、滝口に登り百目蝋燭なんか立てている。作業の
進め方がまるで鎮守の森の祭りをする明るい村民のようだ。
あの場所で、ああいう道具仕立てで儀式を行うとどうなるのか・・・・・理解している
様子はない。
ここで一服と言う意見も出たが、巻き込まれては災難以外の何者でもない。「三
霊」の石碑がある開けた場所まで行こうと言う事になった。
私が前に、リタイヤした場所でもある。
M/A-Shadowさんがここが場所としておかしいと言う。
なるほど「異界への門」がある。磁場の狂いはあるだろう。
この辺りから、私は三輪への認識を改めていた。
なにも無いのではない。
気の質が変化しているのだ。
三輪全山を覆うのは、これまで体験した事がない「少女の神気」だった。
前日が葬祭なら、今日は再生なのか・・・・・
清々しい少女の気は徐徐にだが、その気の正体を明らかにしていくように感じる。
杉山さんはファックしている感覚につきまとわれたそうだが、私は15.6の少女
が、今まさに花開こうとするエネルギーの奔流に飲み込まれていた気がする。
同じような事を考える参拝者もいるんだろうか?
この辺りでは見かけない紫の小さな花で作った飾りなどが参道に散乱している。
台風の被害の爪痕は撤去されていない。むしろ連日の豪雨で酷くなった気すらす
る。どう見てもしゃれこうべや白骨にしか見えない枯れ木をPITさんが叩きながら登
って行く。
頂上の日向社では、多くの虻蜂と山吹色の蝶が乱舞している。
蜂の羽音は機械的で「ぶんぶん」と耳を突く。数からすれば数百匹はいると思える
が、「なに、この蜂は刺しはしない」と私とPITさんは平然としている。
とは言え、これだけの大群が乱舞しているのは異常と言えた。
この辺りから頭に直接響く歌がある。
「神奈備の あな神奈備の大三輪に 神奈備ずくかな 天の大宮」
字余りで上手いものではないのだが、ここでこういう句が届けられるのは意味があ
るのだろう。
私は妙にうきうきした。
奥津岩磐へ向かう道では蝶以外は見なかった。にも関わらず、アブの羽音は終始私
達の回りにあった。
奥津岩磐には先客がいた。
天川神社の信徒なのだろう。五十鈴を振り明らかに降臨を試みている様子だ。岩磐
の左手、神木の影では壮年の男性が息長流の呼吸法で汗をかいている。
今回、ここでも座る事を考えていた私だが、こうも先客があっては断念せざる得な
い。
頂上付近まで下りて来た時、「あんな道ありましたか?」日出倭さんが言う。
確かに今まで気付きもしなかったが、さぁ、おいでとばかりに道が開いていた。
台風と倒木でコースがかわったので、今まで気付かなかったのだろう。
いや、今まで隠されて来たと言うべきなのか・・・・・
実際、下りコースでまじまじと後ろを振り返らないと気付かない代物だった。
私はその道に即座に反応した。「女がいる!」ヘ(゚゚ヘ)☆パシ\(^^;)
修羅さん・PITさん。M/A-Shadowさんも反応は早かった。
私が先頭に道を下る。道には三カ所ばかりトラップが仕掛けてあった。
途中、PITさんに「これは「箸墓古墳」からの入り口じゃないかな?」と語りかけ
る。概ね同意されたようだ。
道を下り、途中、右に曲がると、隠されているかのように大きな岩磐があった。
奥津岩磐に匹敵する霊気を放つ岩磐である。
私は天空の城ラピュタに出てくる飛行石の巨大結晶を思い起こしていた。木々の枝
に覆い隠されているその三つほどの岩磐には神秘を感じさせる何かがあった。
そして、その岩磐それほどの力を放ちながら、三輪の祭祀とは一線を画して祭られ
ていた。
まずは御神酒がない。
岩そのものに注連縄はせず。岩の手前で注連縄を張っており、注連縄からは稲の穂
がぶら下げられている。
「まさか、ここが三輪の稲荷かいな?」とも思ったが、おそらくは違うでしょう。
ここの霊気は奥津岩磐よりも強いように感じます。
個人的には豊受ではいかと思う。
拝むと気が昇る、凄く昇る。霊的装置としては高度なものだ。
なんにしろ、次回以降の三輪ではお参りするポイントが増えたので私は喜んだ。
室生の岩磐・雄神神社の岩磐はそう度々座る機会はないだろうが、ここなら、ひっ
そりと座れそうだ。
こうして三輪は終わった。
下山後はM/A-Shadowさんとレイ君以外、皆、一様に疲れていたが、再生する三輪に
気を吸われたのかもしれない。