Mさんから、丹生川上方面への旅行のお誘いが来た。
なんと、私は車を出し、各ポイントの案内をするだけで連れて行ってくれると
言う有り難いお話であった。
丹生川上神社中社は奈良県東吉野郡東吉野村に座する大きな神社だ祭神は水神
とされる。神様自身が「人の来ぬ所へ祀れ」と仰ったので、現在の位置に祀れれ
たと言います。
水神の地に相応しく、螺旋を描く二条の滝とか、三つの川が合流する夢淵があ
り、そのまま飲めるほどの清流が流れています。
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東の滝 |
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夢淵(三川合流の地) |
Mさんは東京の方で、私より10歳程、若く、同じような仕事をしていたので、
話が合います。泊まりで来られるとのことなので、廃校を利用した宿泊施設を村
で運営していることを告げると、速攻、予約を入れてくださいました。
9月初旬、台風が追いかけて来る中、私はMさんを乗せて、車を発進させた
のでした。
Mさんは、私の書いた「瞑想法入門」を読んで実践し、一時間以上の瞑想も
出来る様になっていた上、真言宗東京別院にて月輪観をなさっているので、話も
通じやすく、他人には話せない神秘的な現象も話す事が出来ました。行方の話は
同門の方でないと出来ないので、、非常に嬉しかったです。
大阪の堺、中百舌鳥から出発して、およそ2時間で丹生川上神社中社に到着し
ます。多方面での道路拡張工事と、大阪から奈良中央への自動車道路が開通した
おかげです。
それでも軽自動車が一台通るのが、やっとの国道もあります。「奈良の国道は
酷道だ」と言われるほど酷いのが有名です。目的地に着くまで、九十九折りのカ
ーブが続くので、本当に人を拒んでいる様です。
丹生川上神社中社へ付くと赤い橋から夢淵を覗く。
家族連れがバーベキューをしていた。(禁止事項なんだが……)
四、五人の子供達水中を走っていた。
昼ご飯を宿に頼んでいるとの事なので、先に廃校へと向かった。
車で15分ほど走ると廃校に着いた。
外見は古い木造校舎のままだが、今も人が使っているからだろう。廃校と言う
言葉に相応しいおどろしい空気や雰囲気は少しも無い。
Mさんはてきぱきと荷物を出し、玄関へ先に走ってサンダルを並べてくれる。
(―――鍛えられてるなぁ~)
と思いながらも、「執事じゃ無いんですから、そんなに気を遣わないで下さい」
と言ったが、Mさんは始終この調子だった。
Mさんが宿泊の手続きをしに窓口へ行く途中、作務衣を着た福々しい老人がM
さんにお辞儀する。Mさんもお辞儀を返した。
(あ、この爺さん、Mさんの格が分かっている)
そう思った。どこかのお寺の人なのかもしれない。
通された部屋はまだ畳の藺草の臭いが残る部屋だが、テーブルもお茶も座布団
も金庫も無かった。寝るときは勝手に布団を敷けと言われた。
なにはともあれ、昼食だ。
鮎の塩焼きが二匹ついた特別料理だった。鮎は当然、天然物だ。食い気に走っ
て、食事の写真は撮り忘れた。
地酒を味わいながら頂きたい料理だったが、運転手が飲む訳にはいかない。M
さんも下戸だそうだ。奥のテーブルでチビチビ飲んでいるご老人二人が羨ましか
った。
食事を済ませて、再度、丹生川上神社中社へ向かう。車を神社の境内に停めて、
橋を渡って、昔の社殿だったと言う古くて小さな神社に最初にお参りする。
私は般若心経を唱えるが、Mさんは大祓の祝詞まで唱えている。
バーベキューをやってた親子の姿は消えている。
「水垢離やりましょうか?」
私はMさんを誘った。事前に水着を用意する様に言ってある。本来は褌でや
るのだが、人目が恥ずかしいかもしれないし、水着なら、少し乾かせばそのまま
車にも乗れる。
同意するMさんに、「水晶玉は持ちましたか?」と尋ねると、懐から取り出し
て見せる。
Mさんには、水晶瞑想法を教えているのだ。文章では伝えにくい水晶玉の構
え方などを教え、河へ下りる。
不思議なのだが、河の中や周辺の岩ころには藻や苔も付かない。一段登った所
の岩は苔むしているので、なぜ、河の周囲に無いのか謎だ。
おかげで水は透明で飲むことも出来る。三つの河が合流する夢淵へと移動する。
足を浸けると清廉な霊気に満ちた冷たさが体を走る。
全身を水に浸けると、氷の柱になったような思いがする。水流が以外と強いの
で四股を踏むようにして、臨の印を結び不動明王真言を唱え、般若心経を唱えて
いると、下腹の辺りが熱を帯び始め、全身が温かくなる。
Mさんも水道水の水垢離では得られぬ感覚で、体を浸す時も水道水よりも柔
らかく、まるで包んでくれる様だったと言う。
二人して河から上がり、岩の上に腰掛ける。Mさんも体がぽかぽかすると言
う。水晶の重さや輝きも変わったと言う。
体が乾き切っても寒さは一切感じなかった。
その後、東の滝へ行く。DNAを思わす二条螺旋の滝だが、古代人がそうなる
ように細工したものだ。どうやって計算したのか想像も付かないが……
禰宜(ねぎ)の話では、この東の滝に白龍がいると言う。
本来、滝行の為に岩の足場があったのだが、数年前の水害で流れてきた大木の
所為で足場が壊れ滝行が出来なくなったと言う。
現在は朝の修行は夢淵での水垢離をしているとの話だった。
そして本社へ参る。
本社は背後の巨大な一つの岩山を拝む形になっている。私は拝殿で神気を感じ
ながら、Mさんを待つ。
以前、訪問したとき、私は禰宜(ねぎ)さんにこう尋ねた。
「ここでの神域は東の滝と夢淵ですよね? でも拝殿の方向違いますよね? こ
ちらの拝殿は山をご神体としていますね。それで、御山は巨大な一つの磐坐です
よね? 一体、どなたを祀っているのですか? 随分、お力のある怖い方の様で
すが……?」
「黒龍です」
答えは単純明快だった。私が那智の滝で感得した龍はここからきていたのかと
納得した。
Mさんは拝殿での参拝を終えて社務所に行っている。ここが占い発祥の地で
あることを説明し、神水を頂けることも告げている。それを求めに行っていたの
だ。
戻ってきたMさんは、訝しげな顔をしていた。
おみくじは末吉で手厳しい内容だった様だ。
私にも意外だったが、他人様のおみくじを見る訳にはいかない。
樹齢千年を超えるであろう杉の巨木に抱きついてから、宿に戻った。
夕食も特別料理だった。鮎がおいしくて。おいしくて。刺身まで出て大満足で
した。部屋に戻り、文字通り一服する。館内全禁煙だが、気にしない。
Mさんが後でウェットティッシュで畳を拭いていた。
「行きましょうか?」
私は声をかけた。Mさんが立ち上がる。
実は夜の神域を味わおうと言う話になっていた。
Mさんは私の同行がなければ行こうと思わなかったと言う。
私は高野口から夜の高野山へ登った経験があるし、命懸けで禁忌を犯して夜の
霊山へ死ぬ思いで登ったこともある。
だが、ライトが照らす校庭から、一歩先へ出たとたん、僕もMさんも「何だ?
これは?」と叫んでいた。
周囲の黒い影と化した山から重く絡みつく凄まじい霊気が降りて来ていた。
ハイビームにしても3,4メートル先しか見えない。
その圧倒的な量の物質化した霊気に私は畏敬を覚えた。神社について気を緩ま
せることが出来た。神社の方が霊気が薄い。
(普通、逆だろ?)
そう思う。
川へ下りようとした私の目には闇しか見えなかった。Mさんには岸と流れの
境が見えているのに、私には見えない。川へ突っ込んだところで(こりゃ、引き
上げなきゃヤバイ)と思った。
Mさんに「帰りましょうか」と呼び掛けて帰路についた。山々から押し潰さ
んばかりの黒の霊気が無限に下りて来ていた。
宿について話がはずみ、風呂の時間を逃してしまった。Mさんには悪いこと
をした。
明朝、私達は滝を目指した。
まずは七壺八滝。ここは日本百名滝に選ばれている、霊気が満ちておりパワー
スポットとしても強力。
その清廉な流れは生き物の存在を拒否し、口に含めば甘露となる。
朝の静謐な空気に滝のミストを加えた空気はマイナスイオンに満ちている。呼
吸すると肺が清浄になる気がする。
坂道の一番上まで登ると、眼前に滝を眺める形で開けた場所に出る。磐坐がご
ろごろしており瞑想に向いている。
Mさんは滝に一番近い台形の磐坐に結跏趺坐する。
私は後ろの地面にやはり座す。
Mさんは直ぐに定に入った。(深い瞑想に落ちること)
太陽の光が木々の間から差す。
下腹部がいきなり温かくなる。
大日如来だなと思う。Mさんも温かくなるのを体験していた。
しばらくすると、ミストがMさんに纏わり付く。
ミストは人の形を取る。
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七壺八滝 |
その人形から、任せて席を外せと言うメッセージを受け取ったので、下流へと
下りる。念のために写真を撮っておく。
小一時間経ち、終わったよ。とのメッセも来たので、戻ってみると、Mさん
は定を解き、立ち上がって、すっきりした顔をしていた。
Mさんは神秘体験をしたのかもしれないと思った。
Mさんは「東京に住んでいると、二度とこんな体験は出来ないと思うので、
思う存分座らせてもらいました」と言ったが、私はこの縁が一回で切れるものと
は思えなかった。
次に和沙羅の滝へ行った。この滝は周辺住民の生活水になっているので、汚さ
ないで下さいとの立て看板がある。
道は急で私はあえぐ。Mさんは先へ進んでいる。一人になった私は眼下に瞑
想に適した丸い霊石を見つけて、何も考えずに下りたが途中で足場が無くなり、
閉口していると、Mさんが来て、登って来いと手を伸ばしてくれる。が、如何
せん運動不足が祟り、中々登れない。
ようやく上へ上がった私にMさんはあきれ顔で苦笑していた。
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和沙羅の滝 |
魚返しの滝へ行こうと車を飛ばすが、あまりの悪路に引き返した。
神社へ挨拶へ向かったが、私は「おまえは来なくて良い。Mだけを寄越すが
良い」と言われたので、車でふてていた。
大阪へ戻ると、Mさんが「なんでも奢りますよ。この体験にはその価値があ
ります」と言うので、お言葉に甘えて、大阪風の鰻料理を出す店に行った。
上方の鰻は関東と違い、腹から裂き、蒸さずに炭火で焼くので脂が乗って美味
しいのだ。
Mさんに最大の感謝を伝え、最寄り駅までお送りして旅は終わった。
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