怖い話 第8集
私は月水金の午前中、医療介護を受けている。
もっぱら、皮膚炎への対応で入浴介護の後、全身への塗り薬の塗布をして頂いている。
先日、最初のバイタルを取る準備をしていると、電源を落としているパソコンから結構
な音量の雑音が鳴り出した。
典型的なノイズ音だが、ノイズの裏からはっきりと年配の男の声で読経の声がする。
医療介護の男性は顔色を変えて、
「SINさん! SINさん! パソコンから音がしてます! 音がしてます!」
そう、うろたえた声で後ろへのけぞった。
私にしてみれば、この程度のこと騒ぐことではない。
何気ない風に、
「おかしいなぁ。物理的にあり得ないんだけどなぁ。電源落ちてるし、高周波でも飛んで
いるのかなぁ」
そううそぶきながら、PCに電源を入れた。
ノイズの向こうの読経に集中するが、私の知るものではない。阿弥陀仏に関わる内容と
知れた程度だ。
電源を入れたのは、悪戯でPCのスピーカーを壊されては敵わないからだ。買い換える
金など無い。
電源を入れると、ノイズは消え、正常に起動音がして立ち上がった。
「なんだったんでしょうね?」
そうとぼけたが、医療介護の方はPCの異常には触れずに黙々とバイタルを取った。
腑に落ちぬのは、この団地が何棟も建ち並ぶ広大な敷地には、良くも悪くも霊波動と言
うものが無い。無風地帯なのだ。こんな土地は珍しい。少なくとも私は初めて住む。
故に、因縁霊などが起こした現象では無い。それなら私が気づかぬ筈が無い。
だが、こう言う現象には必ず意味があることを私は知っている。
そう言えば、お彼岸だったなと思い至る。
先祖供養を本気でやらないといけないなと思った。
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