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 冷徹な眼差しで鈴ちゃんは鳴神先生を見つめた。まるで人を斬ったのを認めたみたいだ。
 ああ……鈴ちゃんは斬ったんだ……僕は斬ったことになるのだろうか?

「察しが良いな。彩宮。お前なら止め所が分かるだろう。試合はこれでやるからな」

 鳴神先生は模造刀を叩いた。思わず血の気が引いた。文字通り真剣勝負ではないか?
 一つ間違えば命を失う。

「……防具もつけずに? 正気ですか?」
流石に怯えて僕は訊ねた。

「ああ、わたしは冗談は言ったことがないよ」

 鳴神先生は極上の笑みを浮かべた。僕は生唾を飲み込んだ。


 剣は気位だと新撰組の近藤勇は言ったという。気で押して押して相手を怯ませ、そして斬る。実戦剣術・天然理心流の極意である。竹刀剣術の速い小手先の技では人は斬れない。
 僕は心胆を練りながら、更衣室で稽古着に着替えると道場へ戻った。 鳴神先生は上座に瞑目して正座している。側には赤い鞘の日本刀が置かれている。そして僕が座る場所には黒鞘の日本刀が置かれていた。僕は正座して鳴神先生に礼をした。先生は静かに目を開けると礼を返す。

 道場の奥に正座していた鈴ちゃんが、凜とした声で静かに言った。

「――始め」

 僕は日本刀を腰に差し、静かに立ち上がり、鳴神先生の挙動を見据える。鳴神先生も剣を腰に差し立ち上がる。剣を抜いていないからと言って安心は出来ない。鳴神先生が居合いもたしなむのは、鈴ちゃんの一件で見ている。
 僕は左足をすっと前に出し、大きく左上段に構えた。
 鳴神先生は正眼の構えから、切っ先を極端に右に下ろした下段の構えに出る。
 試合では決して取ることのない隙だらけの構え。
 その構えを前にして、改めてこれは真剣勝負なのだと知る。迂闊に飛び込めない。面を打てば、即座にいなして突きを放つ構えだ。

「でぇええええい!!」
自分の弱気を払い、相手を威圧する気合いを出した。

「きぃええええぃーー!!」

 対して鳴神先生は甲高い凄まじい気合いで応じる。学校中に鳴り響くと称された化鳥のごとき気合いである。本当にこの先生は人を斬ったことがあるのではないかと思わせた。
 真剣の間合いは、当然、竹刀剣道とは違う。間合いは短い。顔が見て取れる。鳴神先生はすっと目を細めた。瞳の色が青く輝く。

(――来る!)

そう思った瞬間、僕は先の先を取った。

「どりゃぁぁぁぁ!!」

 怒濤の勢いで鳴神先生の頭に向けて刀を振り下ろした。鳴神先生は右足を半歩踏みだし、僕の剣線を交わしたと同時に「きしゃーー!!」と言う気合いと共に突きを繰り出した。

 寸止めにしていたのが幸いした。切り倒すつもりなら剣を振り切った僕に勝機はなかった。僕の切っ先は、鳴神先生ののど元にある。


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